研究実績の概要 |
1.緒言 「高分子と低分子の分子間相互作用」は科学の諸現象を考察する際に基本的な概念である。しかし、複雑な因子が多く、研究は極めて少ない。そこで、単純化した分子間相互作用のモデルとして、高分子素材に対する有機化合物の吸着現象に着目した。これまでに、種々の天然・化学繊維が固有の有機化合物の吸着特性を示す事がわかった。そこで、材料の形状や表面積の影響を少なくするために、各種素材のフィルムに対する有機化合物の吸着を検討して、識別の可能性をみた。 2.実験 1) 材料 ①吸着媒:食品用フィルム、ポリエチレン(PE, 厚さ10μm)、ポリ塩化ビニル(PVC, 厚さ8μm)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC, 厚さ11μm)を用いた。材料はメタノールで抽出後、乾燥した。②吸着物質:有機化合物(ベンゼン置換体,アセトニトリル,ジオキサン,DMF,デカンなど)、炭素数の異なるアルコール。 2) 吸着実験:有機化合物の飽和蒸気にフィルムを40℃で24時間(見かけ上平衡に達する時間)吸着させた。吸着物質を酢酸エチルで抽出して、ガスクロマトグラフィ-(Shimadzu GC-2025)で分析した。単位重量に対する化合物の吸着量を計算した。 3.結果と考察 PE, PVC, PVDCのフィルムに対して、9種の有機化合物の混合物からの吸着を検討した。その結果、次の事がわかった。1)各種フィルムに、トルエンが最も多く吸着した。2番目に多く吸着した化合物は、PEにはデカン、PVCとPVDCにはMeCNであった。2)PEには、MeCNとジオキサンの吸着量が少ない。この事から吸着にはポリマーの側鎖の影響が大きいと考えられた。3)PVCとPVDCの吸着傾向は類似するが、吸着量はPVCの方がPVDCより多かった。PVDCの密な構造が関与すると思われた。この結果、見かけ上の識別が困難なフィルムの識別が可能である事がわかった。
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