気候変動対策として適応策に注目が集まっており、地球温暖化に伴う人体の熱ストレスの軽減が期待されている。一方で人間の暑熱適応には限界があり、過度な期待は健康リスクの増大になる。本研究では夏季の東海地域(岐阜県岐阜市)と北陸地域(長野県長野市)の住宅を対象に実測調査を行い、温熱環境と主観申告を調査した。その結果、次の知見が得られた。 岐阜データでは、プロビット分析による中立温度では23.7ETstarであり、受容範囲(80%)は22.3-25.2ETstarであった。頻度分布では31-33ETstarで分布が少なくなり、熱中症危険閾値の35ETstarまでに室温を下げる傾向が確認された。 長野データでは、主観申告を集計した結果、居住者は、室内温熱環境を高い割合で受容する一方で、熱的不快や温熱環境の調節を要望する割合も高いことが示された。居住者は、暑熱ストレスを感じる温熱環境を受容していた。また高齢者は非高齢者より、熱ストレスが高い傾向が示された。また高齢者は非高齢者より、室内温熱環境が高くなると受容率が大きく低下した。高齢者は、暑熱環境の熱ストレスを強く感じる傾向が示された。 熱的快適性の適応モデルでは、暑熱地域における高温側受容限界の拡大に期待が集まり、リミットが設けられていない。本研究の知見は、熱的快適性の受容限界に加えて暑熱限界を設定する必要性を示唆する。
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