研究課題/領域番号 |
17K12899
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鶴田 剛司 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (90728411)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 牛乳 / 細胞外小胞 / がん細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、牛乳中に含まれる細胞外小胞の抗がん作用を検証することである。大腸上皮がん細胞株であるCaco-2細胞および正常腸上皮細胞株であるIEC-6細胞を用いて牛乳EVsがこれらの細胞の代謝活性に及ぼす影響を比較したところ、Caco-2細胞は主要な腸内細菌刺激であるLPSの刺激下においてのみ代謝活性が低下した一方で、IEC-6細胞はLPSの刺激の有無に関係なく代謝活性は低下しなかった。Caco-2細胞の糖取り込み量およびがん細胞において特に重要な代謝経路である解糖系、グルタミン酸代謝系に牛乳EVsが及ぼす影響を評価したところ、牛乳EVsはLPS刺激下においてのみ糖取り込みを抑制し、解糖系酵素であるGAPDHおよびグルタミン酸脱水素酵素の遺伝子発現を抑制することが明らかとなった。これらの結果から、牛乳EVsは腸内細菌刺激のひとつであるLPSの刺激下において大腸がん細胞の主要な栄養素であるグルコースやグルタミン酸の代謝を抑制していることが明らかとなった。また、正常な腸上皮細胞ではこの作用はみられず、大腸がん細胞で特異的におこる現象であることが示唆された。さらに、牛乳EVsによるCaco-2細胞の代謝活性の低下がCaco-2細胞にアポトーシスを誘導するかを、Annexin-V解析および活性型カスパーゼ3・8・9の発現解析により評価した。その結果、少なくとも牛乳EVs処理後6時間の細胞ではアポトーシス細胞の増加や活性型カスパーゼの発現はみられなかった。現在、牛乳EVs処理時間を延長し、アポトーシス活性の評価を継続している。 これらの解析と並行して、平成30年に実施予定である大腸がんモデルマウスへの牛乳EVs投与実験を円滑に実施するために、モデルマウスの確立にも取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は牛乳EVsによる大腸がん細胞の代謝活性抑制作用の機序の解明に取り組んだ。アポトーシス活性の評価は引き続き平成30年度も実施するが、その他の研究はおおむね順調に進んでいる。平成30年度において特に時間と労力を要する化学発がんモデルマウスの確立は平成29年度にすでに取り組んでいるため、本年度も順調に本研究を進めていけるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はCaco-2細胞の培養実験に加えて、化学発がんモデルマウスを用いた牛乳EVsの投与実験を実施予定である。細胞培養実験では、TLR4リガンドであるLPS以外の腸内細菌刺激が牛乳EVsの作用に及ぼす影響を評価するために、TLR2、5、9リガンドの刺激下で牛乳EVsをCaco-2細胞に添加し、昨年度同様Caco-2細胞の代謝活性およびアポトーシス活性に及ぼす影響を評価する。化学発がんモデルマウスへの投与実験では、大腸がん誘導過程において牛乳EVsを経日的に経口投与する。誘導期間終了後、解剖を実施し、腫瘍の数、大腸組織のアポトーシス活性を評価し、牛乳EVsが大腸がんの発生に及ぼす影響を評価する。本実験で、牛乳EVsの大腸がん抑制効果が確認できた場合は、再現性を検証するとともに、抗生物質を処置し、腸内細菌刺激を減弱した群を新たに設け、牛乳EVsの大腸がん抑制作用における腸内細菌刺激の影響について検証する。牛乳EVsの大腸がん抑制効果が確認できなかった場合は、牛乳EVsの投与濃度や頻度を変更して、再度投与実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の残額が3789円発生した理由としては、残額以下の価格で購入可能な品目がなかったため、次年度に3789円を持ち越す決断をした。
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