過去のマウスを対象にした実験において,「麹」には抗肥満作用やインスリン抵抗性改善作用があることがわかっているが,そのメカニズムは今のところ不明である.近年肥満に伴うインスリン抵抗性には脂肪組織の炎症が関与することが報告されており,麹の抗肥満効果は炎症の抑制を介した作用であることが示唆される.そこで本研究は,主に培養細胞を用いた肥満に伴う炎症モデルを用いて,麹の抗炎症作用の解明及び抗炎症成分の同定を試みた. 平成29年度は,マウスマクロファージ細胞 (RAW 264細胞) にLPSもしくはパルミチン酸を曝露することで炎症を誘導し,麹抽出物が炎症性メディエーター産生量に与える影響をリアルタイムPCR及びELISAにより調べた.その結果,麹抽出物はLPS誘導性炎症を抑制せず,パルミチン酸誘導性の炎症を特異的に抑制することが分かった.さらに炎症性メディエーターの上流にあるタンパクのリン酸化体の発現量の変化をウェスタンブロッティングにより調べたところ,麹がパルミチン酸によるp38MAPKのリン酸化を特異的に抑えていることが明らかになった. 続いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた抗炎症成分の分画・精製を行ったところ,クロロホルム画分 (中性脂質画分),アセトン画分 (リン脂質画分) の順に抗炎症活性が高く,メタノール画分 (糖脂質画分) には活性が見られないことが分かった.そこで平成30年度は中性脂質画分に着目し,抗炎症成分のさらなる分画・精製を行った.ヘキサン/クロロホルムによってステップワイズ溶出したところ,比較的高極性の画分に高いTNF-α産生抑制効果が見られた. また麹脂質抽出物の成分分析を行い,各成分の純物質による抗炎症活性を測定した.その結果,麹に含まれていたリノール酸,リノレン酸には抗炎症効果が見られ,麹の抗炎症効果には不飽和脂肪酸が一部寄与していることが示唆された.
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