NHE3の輸送活性は細胞内pH(pHi)を感知して調節され、pHiが中性付近では大部分が不活性状態にあり、細胞内H+濃度が上昇すると活性化される。このNHE3の速度論的調節を説明するために、H+センサーモデルと対称二量体モデルの2つが提案されている。我々は、NHE3が数分かけてゆっくりと活性化されることを以前に示している。このことは、二量体形成のような立体構造変化が活性化に関与している可能性を示している。また、生理的条件下では、NHE3は他の輸送体とカップルして働くと考えられている。例として、Cl-/HCO3-交換輸送体や、H+依存性ペプチド吸収輸送体とのカップリングが挙げられる。 本研究ではNHE3の活性化機序を検討するため、NHE3特異的阻害剤として、対称構造を有しNHE3との結合部位が2つ想定されるテナパノールと、従前より用いられているS3226とを比較した。まず、内因性NHEを欠損したPS120細胞に、NHE3を遺伝子導入し、安定発現株を作成した。NHE3の活性は、酸負荷後のNa+誘発性pHi回復率として評価した。 NHE3発現細胞において、テナパノールは用量依存的にNHE3活性を阻害した。次に、マウス腸管より粘膜標本を単離しUssingチャンバー法にてNHE3輸送活性を評価した。ペプチド誘発性短絡電流上昇は、テナパノールおよびS3226によって用量依存的に阻害された。経上皮22Na+フラックスはS3226によって完全に阻害されたが、テナパノールでは阻害されなかった。また、テナパノールを前処理すると、NHE3活性測定中にはテナパノールが存在しないにも関わらず、用量依存的にNHE3活性を阻害した。以上の結果より、テナパノールが不可逆的にNHE3に結合する可能性と、NHE3の異なる輸送モードを認識することが示唆された。
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