腎機能の低下した慢性腎臓病(CKD)患者は、食事から摂取したリンを尿として排出できず、過剰なリンが体内に留まることで高リン血症を引き起こす。高リン血症は、心血管疾患等の生死に関わる重篤な合併症を引き起こすことから、積極的なリン管理が重要である。現在CKDの食事療法では、リンは食品中でタンパク質と結合して存在していることが多いため、タンパク質を制限すれば必然的にリンも制限できると考えられている。しかしながら過度のタンパク質の制限は、CKD患者の栄養状態の悪化を招く可能性があることから、本研究では、適切なタンパク質量を確保し、尚且つリンを選択的に制限することが望ましいと考えた。平成29、30年度の研究では、動物性食品と植物性食品に含まれるリンの存在様式並びに吸収率の違いに着目し、植物性食品由来のリンが70%の食事は動物性食品由来のリンが70%の食事に比べ、健常者の食後の血中リン濃度の上昇が穏やかであることを明らかにした。また、その要因の1つとして植物性食品に多く含まれる食物繊維が関わっていることも示唆された。令和元年度は、CKD患者への応用に向け、健常者を対象とした臨床研究のサンプル数を増やすとともに、慢性腎臓病に対する食事療法基準に準拠した植物性食品或いは動物性食品由来のリンが70%の食事の開発を行った。CKD患者を対象とした食事の開発を行うにあたり、調理後の食事の栄養価を測定し、調理による栄養価の損失も考慮した食事の開発を行った。CKDの食事療法に準拠した試験食が完成後に、協力が得られたCKD患者に対し、健常者と同様の臨床研究を行ったところ、植物性由来のリンが多く含まれる食事は、動物性由来のリンが多く含まれる食事に比べ、食後の血中リン濃度の上昇が穏やかであった。すなわち、植物性由来のリンが多い食事は、CKD患者の血中リン濃度の上昇を抑制できる可能性が示唆された。
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