本年度は、食事最適化法を用いた食事価格のシミュレーションのための数学的モデルを活用し、社会経済状況によって食事価格の変動が食品構成に及ぼす影響に違いがあるかを検討した。 本研究では、東日本の4県19校の小学5年生とその保護者を対象に実施した調査において、生活習慣に関する質問票(保護者)および4日間食事記録(子ども)の有効なデータが得られた844組の既存データを活用した。世帯の年間所得を世帯員数の平方根で除した等価可処分所得によって、対象者を3群に分類した。そして食事最適化法を用いて、栄養基準を満たし、かつ現在の食習慣を大きく変えない1日の食品構成を実現させるために必要な価格を算出するとともに、食事価格を変動させたときの食品構成の変化を3群間で比較した。現在の食事価格は平均916円、そして世帯所得の低い群から順に879円、913円、964円であった。一方、最適化後の食事価格は平均1106円、そして世帯所得の低い群から順に1099円(現在の食事価格より25%増)、1079円(18.1%増)、1123円(16.4%増)であった。よって、世帯所得の低い群では、栄養基準を満たす食品構成を実現するためにはより費用がかかることが明らかとなった。観察時(現在)と最適化後の食品構成を比較したところ、すべての群で共通して他の穀類(98~124%)、豆類(134~150%)、海藻類(158~204%)、そして卵類(95~102%)の大幅な増加がみられた。さらに世帯所得低群・中群は果物の摂取量の増加、そして低所得群は、さらにきのこ類と魚介類の増加もみられた。また、現在の食事価格に固定した場合の食品構成の変化を検討したところ、3群ともに最適解が得られたものの、世帯所得低群ほど現在の食品構成よりも大幅に食品を変更する必要があることがわかった。以上より、栄養基準を満たした食品構成を実現するためには、世帯所得によって変容すべき食品群の種類や量が異なることが示唆された。
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