研究課題/領域番号 |
17K12928
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
大谷 詩織 (山本) 国立医薬品食品衛生研究所, 食品衛生管理部, 研究助手 (40795291)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Listeria monocytogenes / バイオフィルム / 温度 |
研究実績の概要 |
バイオフィルムは環境微生物における生存戦略の一つであり、一度形成すると完全除去は難しく、その形成制御が必要とされる。食品衛生分野におけるバイオフィルムは、食品加工・調理施設における病原細菌の生存性を上昇させる点が課題とされている。本研究では、当該施設におけるバイオフィルム形成による食品汚染が問題視されるListeria monocytogenesを対象とし、バイオフィルム形成に関与する環境因子の探索と遺伝子発現プロファイルの構築及び各遺伝子群の相互作用を明らかにすることで、バイオフィルム形成基盤に関与する基礎的知見の収集とそれに伴う同表現形質の誘引機構の解明を行うことを目的とする。 平成29年度には、ヒト臨床、動物、食品、及び環境由来から分離したL. monocytogenes計171株を対象としてバイオフィルム形成能別分類を行い、当該形質に寄与する環境因子の網羅的解析として、①温度による当該形質への影響、②バイオフィルム形成過程における表現形質の変化について検討した。37℃及び30℃間における当該形成能を比較したところ、30℃下における形成能の方が有意に高く認められた(P<0.01)。特に形成能が高く見られた7株について5℃下における当該形質を評価したところ、37℃下に比べて形成能は低い結果となった。以上の知見より、バイオフィルム形成能の変動には温度依存性挙動を示しつつ、菌株間での多様性を示すことが明らかとなった。また、バイオフィルム形成性と凝集性・付着性との関連性が示唆され、遺伝子発現応答機構の重複作用が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において最も重要とされるL. monocytogenesのバイオフィルム形成能別分類を終えており、次年度につながる基礎的なデータを得ることができている。また、温度による当該形質発現への影響の評価も進んでおり、さらに形成過程における表現形質の変化についての検討が進んでいる。一方、浮遊細胞とバイオフィルム形成細胞における遺伝学的差異の検討はやや遅れ気味であるが、現在、次年度に実地予定であるRNAシーケンスに現在供していることから、本研究は概ね予定通りに進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、以下の研究項目を遂行する。 ・温度変化に係る遺伝的応答変化の解析:温度変化に関与する遺伝子群を標的とし、リアルタイムPCRを用いて、異なる温度下における当該遺伝子応答変化を明らかにする。 ・バイオフィルム形成に伴う遺伝子発現のプロファイリング:浮遊細胞・バイオフィルム形成細胞について、バイオフィルム形成能に寄与する遺伝的影響を明らかにするため、次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析を通じて、発現する遺伝子群のプロファイリング及びその比較解析を行う。サンプル間の変異データを比較解析することで、当該因子の存在による発現量の差が大きく認められる因子を特定する。 ・バイオフィルム形成に係る各遺伝子群の相互作用の解明:バイオフィルム形成に係る遺伝子群の調節機能を担う因子を特定するため、各遺伝子群から産生されるタンパク質と高い関連性がある因子を推定し、さらにKEGG Pathoway Databaseからその代謝経路を予測する。バイオフィルム形成に関与すると推測された候補遺伝子による表現形質への影響を明らかにするため、候補遺伝子欠損株を作製し、関連遺伝子群のmRNA発現量をSYBR Greenを用いたリアルタイムPCRによって定量することで、その形質発現能を確認する。
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