本研究では,ソフトウェア開発技術者が必要とする文書力を向上させる教育を検討する.ソフトウェア開発技術者となる学生を対象に,導入,基礎,応用からなるカリキュラムを検討し,各段階の教材を作成して教育を実施し,その結果を評価した.導入段階では,学生が自分の文書力や文書の役割を認識する.基礎段階では,技術文書の基礎を習得する.応用段階では,成果物を開発してもらうための,設計書作成の演習を行う.これら各段階の教材を作成する. 導入段階では,ペアで異なるデザインを文書化して相手に描画してもらう演習と,地図案内を文書で伝える演習をさせた.ここで,文書による情報伝達の難しさを体験させて,自分の文書力を確認させた.基礎段階では,レポート作成を題材にしたテキストを作成した.システム開発文書品質研究会が提案している文書品質モデルを参照して,品質特性ごとに具体的な事例を用いた概要や演習問題を作成した.これで,具体的な書き方を習得させた上で,問題点を含んだレポート文書の指摘および改善をグループで演習させた.応用段階では,ペアで異なる課題の設計書を作成させて,相手に設計書を渡してプログラムを作成させた.これにより,自分の文書を基に生成される成果物から,開発文書の役割および,ソフトウェア開発における文書スキルの必要性を学ばせた. これらの段階を踏んで進めるための教材を作成して実施した結果,学生は導入として気づきが得られ,それをきっかけに具体的な基礎を習得し,応用としての開発文書作成を体験することで,本研究の目標とした効果を与えることができた. 本年度は,システム開発文書品質モデルとレポート作成を題材にしたテキストのすり合わせにより,モデルおよび演習教材の精査を行った結果を発表した.また,最終年度として,査読付き論文を投稿したが採録に至らなかった.そのため,今後,得られた成果を基に,さらなる展開を検討する.
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