水中保管時における木製遺物の劣化には、好気性微生物の活動が大きく影響していると考えられる。これまで申請者らは、実際の遺物の水中保管環境において溶存酸素を低減する方策を検討、考案してきた。一方、木製遺物を水中で長期間安定して保管するためには、溶存酸素のほか、光および温度条件の違いによる遺物の劣化への影響を定量的に評価する必要がある。本研究では、出土木材を試料とした腐朽実験を中心に、水中における木製遺物の劣化を十分抑制するための、人的・経済的な負担や環境負荷が小さく、簡便かつ継続的に運用可能な手法の開発を目指した。 平成29年度より、出土木材を試料とした腐朽実験に着手した。本実験では、溶存酸素の有無、および微生物の栄養源の有無の条件がそれぞれ異なる、4つの水槽に出土木材試料を保管し、あらかじめ設定した期間が経過するごとに取り出して、劣化状態の分析をおこなうこととしている。すでに回収した試料については、飽水重量などから推定される最大含水率値を中心に、劣化程度の評価を試みた。平成30および31年度においても、引き続き、回収済みの試料の分析を実施した。実験初期においては、条件の違いによる差異は明瞭でなかったものの、実験の継続により、一定の傾向が現れたものとみられる。 なお当初計画では、上記のほか種々の条件を設定した実験の実施を検討していたが、木材試料の腐朽には比較的長い実験期間を要することが示唆されたことから、試料の設置期間を延長し、条件の違いが試料の劣化に及ぼす影響を中長期的な観点で検討するよう計画を見直した。 以上の結果、遺物の劣化を効果的に抑制するための環境条件に関する基礎的な要件について、実測データに基づいて整理し提示することができた。
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