本年度は、まずは昨年度に引き続き大規模な地理空間データに着目した回帰モデリング手法の高速化・多様化を行った。高速化に関しては、昨年度までに実施した計算時間の短縮に加え、消費メモリの理論的な上限の存在しない回帰モデリング手法の開発を行うことができた。また既存の回帰アルゴリズムとの比較により、大規模データ用の既存の最速のアルゴリズムを上回る計算効率でのモデリングが可能となったことを確認している。多様化に関しては、空間データのみならず、時空間データ、階層構造を持つデータ、noisyなデータを含む幅広いデータに応用可能なように上記手法を拡張した。結果として、大規模な空間・時空間データを取り扱うための高速・多様な回帰モデリング手法を確立することができた。また開発した各手法は全てフリーの統計ソフトウェアのRパッケージspmoranとscgwrに実装・公開した。以上に加え、研究計画に従って開発した各手法を幅広い実問題に応用した。具体的には次の通りである:住宅地価解析への応用により水害リスクが過少評価されている地区を推定した;地域生産額のパネルデータへの応用により鉄道開業が与えた影響を面的に評価した;町丁目別の犯罪件数データへの応用により「例えば万引きは人口密集地で起きるが、自転車盗は周辺にくらべて人口が密集していない地域で起こりやすい」などの犯罪リスクの決定要因を解析した。以上の結果に基づいて、開発手法の手法の修正・高度化を行い、より実用に役立つ手法へとの拡張を試みた。
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