研究課題/領域番号 |
17K12986
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研究機関 | 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター) |
研究代表者 |
齋藤 靖洋 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), 国際海洋政策研究センター, 准教授 (20787254)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 故障時刻データ / ノンパラメトリック推定 |
研究実績の概要 |
本研究では、船舶運航中に確率的に発生する機関故障のふるまいを確率点過程を用いてモデル化し、その年齢特性を把握した上で効率的な予防保全(予防的修理)を提案して、危機的な機関故障の回避を実現する枠組みを提供することを目的としている。具体的には、故障データ解析に用いることが可能な強力な数理モデルであるトレンド再生過程を導入し、船舶使用者にとって最適な予防保全スケジューリング問題を定式化して、その経済的効率性について検証することとしている。 海上という特殊な条件下における年齢特性について把握するため、初年度は主に海上において実際に運航されていたプレジャーボート等の機関故障データの収集に注力した。また次年度は、得られた各故障時刻列データが任意のトレンド関数を持つトレンド再生過程に従うか否かを検証するために、再生過程の検定手法を応用した仮説検定法を考察した。これらを受け当該年度は更に、故障時刻列データを用いて、トレンド再生過程のノンパラメトリック推定手法の開発を行った。具体的には、カーネル推定や制約付きノンパラメトリック最尤推定に基づく推定手法を提案し、最大対数尤度や最小二乗誤差といったデータへの適合性を比較することで、これら推定手法の優劣について確認することが出来た。本手法は故障データ解析が頻繁には行われておらず、確率点過程の持つ条件付き強度関数形に対して事前情報が存在しない小型船舶機関の故障に対して、その統計的性質を把握するための方法として大変有益な成果であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、それぞれの年度に対して次の4つの段階に大きく分けて実施する計画としている。①平成29年度に関しては、小型船舶の機関故障の現状を把握し、今後の研究を継続していくための故障時刻データの収集とそのデータベース化を行う②平成30年度に関しては、得られた故障時刻列データが、単純な非同次ポアソン過程や再生過程に従うか否かを調べるために、統計的仮説検定を行う③令和元年度に関しては、故障時刻列データを用いて、トレンド再生過程のノンパラメトリック推定手法の提案を行う。具体的には、カーネル推定や制約付きノンパラメトリック最尤推定に基づく複数の手法を提案し、そのデータ適合性を比較することでより優れた推定手法を明らかにする④令和2年度に関しては、上記手法を活用して小型船舶機関の年齢特性を把握し、定量的な保全指標を示すとともに、機関故障を回避するための経済的な予防保全方策の立案を行う。 当該年度で実施予定であった③に関しては、当初の計画通りの内容を概ね達成することが出来たと考えている。しかしながら一方で、研究初年度より継続実施してきた実データの収集に関しては、今年度の実施予定時期に新型コロナウイルスの影響を受けることとなった。これについては更なるデータ収集を行う必要性を感じているところである。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度については、今年度開発したトレンド再生過程のノンパラメトリック推定手法を用いて、小型船舶機関の年齢特性の推定を行った上で、その結果に基づいて任意の時刻において機関が故障する確率や次の故障が発生するまでの平均時間などの定量的信頼評価指標を算出する予定である。更に、推定結果に基づいて故障数の時間的変化に着目し、経済的に最も効率的な予防保全計画のタイミングを求めることを目指す。これを行うためには、モンテカルロシミュレーションに基づく期待故障数の推定が必要不可欠であり、大きな計算コストが必要となると予想される。得られた数理的な結果は、船舶使用者に明示することにより、小型船舶事故における機関故障の回避に繋がることが期待出来る。これらの研究成果については、秘匿情報以外のものに関して所属機関である海上保安庁を通じて、小型船舶の定期検査を所掌する日本小型船舶検査機構に対しても提示することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は年明け頃より新型コロナウイルスの影響を強く受けることとなり、研究成果の発表に使用予定であった出張費のキャンセルや、研究に必要な物品購入が大きく滞る事態となったことから、予定外の未使用額が嵩むこととなった。次年度についても現状では、学会の開催がどうなるのか等、先が見えない状況であるため、当初の使用計画通りに進められるとは思えず、臨機応変に対応していく必要があると考えている。
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