本研究は、船舶運航中に確率的に発生する機関故障のふるまいをトレンド再生過程を用いてモデル化した上で効率的な予防保全(予防的修理)を提案し、危機的な機関故障の回避を実現する枠組みを提供することを目的とした。これを達成するために初年度から昨年度にかけては、プレジャーボート等における実際の機関故障データの計測・収集や得られた各故障時刻列データが従う確率点過程を調べるための統計的仮説検定手法の適用を順次実施した。更には故障時刻列データを用いて、より優れたトレンド再生過程のノンパラメトリック推定手法の比較・検討を行い、モンテカルロシミュレーションに基づいて平均故障時間間隔等といった定量的な信頼評価指標を算出する方法を構築した。これらを受け最終年度においては、任意の期間における期待故障数の時間的変化に着目することで、経済的に最も効率的な予防保全計画のタイミングを求めることに注力した。 本研究の成果を用いれば、小型船舶運航者に対して、機関故障が実際に発生した場合に被ることとなる損害の程度及び予防保全実施時のコスト面の負担を比較し、明示することが可能となる。これはつまり、損失回避性を持つ一般的な運航者に対し、機関故障回避のために必要な行動を自ら取らせることに繋がるものと考える。また、機関故障の発生頻度については、静穏であることの多い内海を主に航行する船舶と風浪の影響が大きい外海で活動する小型船舶では当然異なるものとなる。本手法は従来の画一的な定期検査では限界のある個々の小型船舶の運航環境を考慮した上での適切な機関故障防止の一助となることが期待出来る。 更に、本研究を通じて得たモンテカルロシミュレーションを用いる故障発生タイミングの確率的な推定手法を応用すれば、行方不明船舶の海難発生時刻の特定が大きな鍵となる捜索救助といった分野にとっても、大変有益な効果をもたらすものであると言える。
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