研究実績の概要 |
本研究は,作業を再開する際に,ある作業をしたと思ったり,まだしていないと思ったりという記憶錯誤から起こる不安全行動がどのような環境で生起しやすいかを明らかにすることが目的であった。 医療事故情報収集等事業で公開されている医療事故およびヒヤリ・ハット事例のデータベースから前年度までに抽出した中断した作業を再開する時に不安全行動が生じた事例について追加分析を行ったところ,新たに次のことが示唆された。挿入課題として生じた業務はナースコールや別の患者への対応など対人業務が94%であった。対人業務の特徴として認知負荷が高いことが挙げられる。挿入課題の認知負荷の高さが主課題に戻った際の記憶錯誤の生起を招くことは実験室実験を行った従来の研究から示されているが(e.g.,Landau,2001; 三浦, 2015),それが医療業務でも定量的に確認されたという点で意義がある。ただし,対人業務は認知負荷が高いだけでなく緊張感が強いとも捉えられるため,緊張感も今後に留意すべき新たな要因と考えられる可能性がある。また,医療業務は対人業務が多いため,中断による記憶錯誤の生起において挿入課題が対人業務である割合がそれを踏まえた上でも実質的に高いかについては,今後に確認する必要がある。そして,主課題と挿入課題の類似性については,似ていない事例が92%であった。主課題と挿入課題が類似していると主課題に戻った際に記憶錯誤が生じやすくなることは指摘されているが(e.g., Norman, 1990),医療事故の事例分析からは主課題と挿入課題の類似性の影響は比較的小さいことが分かった。これらの結果は,今後の研究計画に反映させたい。
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