研究課題/領域番号 |
17K12999
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長嶋 史明 京都大学, 防災研究所, 特定助教 (70793537)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地盤構造同定 / 拡散波動場理論 / 地震動予測 / 被害予測 |
研究実績の概要 |
本年度は,欧州の地震観測網であるEngineering Strong Motion databaseから2016年の地震により大被害が発生したイタリア・アマトリーチェ台地での臨時余震観測記録を収集した。被害が集中した旧市街では余震観測が行われていなかったがその周辺の台地内外での観測記録を収集できた。それらを用いて水平上下スペクトル比や同定地盤構造を求め、台地内外や台地内の局所的な地盤震動特性の変化を推定できた。いくつかの観測点ではPS検層が行われており、同定構造はPS検層と比べ大きく外れてはいないものの異なる形状となり、一方でPS検層構造では水平上下スペクトル比を説明できず、見ている波動場や周波数範囲の違いが影響したものと考えられる。 2016年の地震によるアマトリーチェでの被害に関する文献を収集し、建物構造種別や被害率などに関する情報を収集した。また、2008年のラクィラ地震後に残存レンガ造壁を用いて行われた載荷試験結果などイタリアのレンガ造建物の耐震性能に関する文献についても収集を行った。 昨年度整理したS波速度とP波速度、深さの関係について更なる分析を行った。日本全国に敷設されている地震観測網のK-NETでのボーリング調査原簿のあたり地下水位の深さについてまとめ、地下水位深さの最頻値とP波速度が不連続に変化する深さが対応することを示した。地下水を含まない不飽和土だとP波速度が水のP波速度を下回る可能性があることから、P波速度によって場合分けして不飽和土とそうでない場合のS波速度を変数としたP波速度の換算式も求めた。 地震動の拡散波動場理論に基づく地盤構造同定に関してEuropean Seismological Commissionにて発表を行い本手法に関して世界に向けて発信するとともに多くの研究者とディスカッションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では昨年度に引き続き地盤構造同定手法の適用性の検証を行い、並行してアマトリーチェでの被害予測のための情報収集を行うこととしていた。地盤構造同定手法に関しては今年度はアマトリーチェでの観測記録を用いて同手法を適用し観測記録に対して説明能力の高いものを同定できた。また、アマトリーチェでの被害や建物の震動性状に関する知見の収集も行う事ができたので、平成30年度の計画をおおむね実行できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、今年度同定した構造を用いて地震動予測を行い、アマトリーチェの建築物状況を考慮して被害予測を行う。被害の集中した旧市街部では建物倒壊等の危険性が高かったため余震観測は行われていないが2017年に微動観測を行った結果が報告されており、当該論文の共著者とも連携をとりながらアマトリーチェの地盤構造を作成し地震動予測を行う。収集した建物耐力などに関するデータを用いて被害予測モデルを改良し、先行研究で指摘されているアマトリーチェの建物の施工不良による脆弱性も考慮しながら被害予測を行い実際の被害率との比較を行う。
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