研究課題/領域番号 |
17K13006
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (60709624)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 長江希釈水 / 平成21年中国・九州北部豪雨 |
研究実績の概要 |
九州・中国地方周辺では、東シナ海の海面水温の季節的な昇温に起因して、梅雨末期(7月の中旬から下旬)に頻繁に集中豪雨が発生する(Manda et al., 2014)。一方、Kako et al. (2016)は、長江希釈水が東シナ海の夏季海面水温の低下に寄与することを海洋循環モデルを用いた双子実験で明らかにした。本研究は、長江希釈水の流入に伴う東シナ海の海面水温変動が集中豪雨の発生・発達に与える影響について、平成21年7月中国・九州北部豪雨の気象条件を事例として調べた。 対象海域を黄海・東シナ海の全域とし、WRF ver.3.8(空間解像度9km)を用いて、集中豪雨の再現実験を行った。計算期間は、2009年7月19日0時から2009年7月26日18時までの8日間である。次に、集中豪雨の発生・発達に対して東シナ海の海面水温が与える影響を調べるために、WRFの大気の初期値と境界条件は2009年のままとし、下部境界条件である海面水温のみを1981年から2010年までの30年間分のデータに置き換えた感度実験を行った。このとき、長江希釈水の効果を除去した海面水温を用いて同様の感度実験を行うことで、長江希釈水が持つ集中豪雨に対するインパクトも調べた(すなわち、全60ケースの計算を行った)。 海面水温のみを経年変化させた感度実験からは、大気の条件が全く同じでも、九州北部における日積算雨量に約400 mm/dayの差が現れることがわかった。降水量と海面水温との回帰分析からは、東シナ海南部の水温が低下すると九州北部の集中豪雨が強化されることが示唆された。長江からの淡水流入を除去した海面水温を用いた同様の解析からは、この様な結果は得られないことから、長江希釈水は九州北部の集中豪雨を強化する役割を担っていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に大きな問題は発生していない。
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今後の研究の推進方策 |
長江希釈水の流入に伴う東シナ海南部の海面水温低下が九州北部の集中豪雨を強化するメカニズムを明らかにする必要がある。東シナ海南部の海面水温が低下すると、同海域における潜熱放出が抑制され高圧化し、それに伴って北側に分布する低気圧(梅雨前線)が強化され、九州北部の降水量増大に寄与すると推察しているが、これを領域大気モデルの出力結果を詳細に解析することで定量的に証明する。 また、実施計画に従い、他の集中豪雨の事例に関しても同様の数値実験を行うことで、長江希釈水のインパクトを調べる。特に、九州北部だけでなく、南部にも豪雨をもたらした平成18年7月豪雨や平成24年九州北部豪雨に特に注目する必要がある。九州南部での集中豪雨に対する長江希釈水の役割は、北部の場合と異なる可能性が高いと考えている。これらの成果を学会等で積極的に発表すると共に、関連する研究の情報を収集することで、研究をさらに推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
より多くの事例に対応できる領域大気モデルを作成するために、当初予定した海域よりも広範囲の領域をカバーするモデルを構築したため、計算と解析に時間を要した。このため、執筆中の論文を英文校正・投稿するに至らなかった。繰越し額は、英文校正費・論文投稿料等に使用する。
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