研究課題/領域番号 |
17K13006
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (60709624)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Moisture flux / 集中豪雨 / 長江希釈水 |
研究実績の概要 |
昨年度は、激甚災害に指定された平成21年度中国・九州北部豪雨の気象条件を事例に、長江希釈水が集中豪雨に与える影響を数値実験を通して調べた。その結果、長江希釈水の流入に伴う東シナ海域南部の海面水温低下が、この集中豪雨の強度に影響することが示された。しかしながら、海洋からの熱供給の減少が、この集中豪雨を強化する要因を示していない。そこで本研究は、上記の気象事例に対する東シナ海の海面水温変動が持つインパクトについて、特にmoisture flux (MF)に注目して調べた。 感度実験の結果を、集中豪雨時の降水量が多いケースと少ないケースに分けた後、MFの収束場をそれぞれ計算し、その比較を行った。MFの収束域は2つのケースで大きく異なり、その収束場の変化が集中豪雨の強度に大きく影響することが示された。MFの収束場は風速のそれと大きく関連する一方で、大気比湿の空間構造にはほぼ依存しないこともわかった。これは、海面水温の変化に伴った海上風の変化が、集中豪雨の強度に大きく寄与することを意味している。また、海面気圧のラプラシアンを求めMFの収束場との比較を行ったところ、二つの空間パターンは、低気圧の存在位置を除いて、よく一致していた。これは、数日程度の時間スケールであっても、海面水温が下層大気の圧力勾配を形成し、大気を直接駆動することで、風速場の変化が発生することを示している(圧力調整メカニズム)。加えて、東シナ海南部の水温が高いケース(集中豪雨時の雨量が少ないケース)では、九州北部に下層大気が到達する前に大気が不安定となるため、東シナ海上での降水量が増大し、集中豪雨時の降水量が減少することも示された。この結果は、降水量の増減のみから、それに対する海面水温の影響を判断することが難しいことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に大きな問題は発生していない
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今後の研究の推進方策 |
平成24年九州北部豪雨を気象事例として、同様の実験・解析を行なったところ、東シナ海の海面水温が高いケースの方が降水量が多く、海洋からの熱供給の増大が集中豪雨の強化に対して重要な役割を担っていることがわかった。このように二つの事例における実験結果が全く逆となる理由を、実験事例を増やしながら明確にし、その中での長江希釈水の役割を明らかにすることを計画している。これらの成果をまとめ、国内外の学会で発表するとともに、国際論文誌に投稿するための論文を執筆する。
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