フェーズドアレイレーダーの観測データに基づき、令和元年東日本台風に伴って千葉県市原市で発生した竜巻と推定される突風被害事例について、その渦とデブリの開始に関する過程を解析した。その結果、竜巻被害が発生する約5分前から、高度数10mの地上付近では直径数100m程度の渦が断続的に形成・消滅を繰り返していたこと、この渦は積乱雲内後方の下降気流に伴うガストフロントの到達とともに急激に強化され、竜巻の発生に至っていたことが明らかになった。また、初期に形成された渦の内部では、周囲に比べてレーダー反射強度の高い領域が生じている様子が捉えられ、この領域は次第に上昇するとともに、二重偏波レーダーによって竜巻飛散物の特徴を有することが明らかになった。これらの結果は、竜巻被害域を通過する数分前から、地上付近で渦の形成とそれに伴う飛散物の発生が始まっていたことを示唆するものである。このように、台風に伴う竜巻の開始過程について、詳細な観測的な特徴が明らかになった。 さらに台風に伴う突風現象をより詳細に理解するため、筋状の気流構造である境界層ストリークに着目し、台風環境場が地上に与える影響について調査した。令和元年房総半島台風の関東域通過に伴って、千葉県を中心とする関東地方に甚大な強風・突風被害が発生した。千葉県千葉市に設置されたフェーズドアレイ気象レーダーのデータを解析したところ、4-8km間隔で並んだ、台風の接線風に概ね沿う走向を持つ境界層ストリークが捉えられた。極大値・極小値の風速差は概ね10m/sであり、地表付近から高度1-2kmにかけて、高度とともに台風中心から外側に傾く鉛直構造を有することが明らかになった。数値シミュレーションによる結果と比較したところ、台風に伴う水平風の高度方向の強いシアが原因となっていることが示唆された。
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