研究課題/領域番号 |
17K13016
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 康之 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (30631874)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ニューロメカニクス / 歩行停止動作 / バネ-質点モデル / 間欠制御 / 安定多様体 |
研究実績の概要 |
歩行開始および歩行停止動作は,立位姿勢と歩行運動という異なる運動状態を遷移する過程であり,高齢者の転倒リスクが高い.これまで,歩行開始動作に関する研究は広く行われている一方で,歩行停止動作に関する研究は十分に行われていない.また歩行停止動作に関する研究の多くは運動計測実験に基づくものであり,数理モデルを用いた数値シミュレーションや解析的な研究は稀である. 本研究では,ヒトが定常的な歩行運動から静止立位姿勢へ遷移する過程をバネ-質点モデルを用いてシミュレート・解析した.これまでに行われた歩行停止動作の計測実験により,定常歩行と歩行停止動作の差異は以下の三種類に大別される:1. 歩幅の短縮(step length control),2. 足関節底屈動作の増大(ankle control),3. 膝関節の伸展(knee control).本研究ではこれらの制御をバネ-質点モデルに実装し,それぞれの制御がバネ-質点モデルのダイナミクスへ及ぼす影響を調査した.結果として,ankle controlは歩行中の前方への運動を十分に減衰させられるが,step length controlおよびknee controlはその能力を持たないことを明らかにした. つづいて,定常歩行中のバネ-質点モデルにこれら三種類の制御を同時に作用した場合のダイナミクスの変化を調べた.これにより,バネ-質点モデルおよびこれらの制御メカニズムによりヒト歩行停止動作における身体ダイナミクスの様々な特徴を再現できることを示した.さらに,バネ-質点モデルのサドル型状態空間に存在する安定多様体に依存した間欠性をankle controlに持たせることにより,より安定して歩行停止動作を成功させられることを示した. 本研究で構築した歩行停止動作モデルを皮切りに,歩行停止動作における身体制御メカニズムの理解の深化が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,身体の機械力学的特性と脳・神経系の制御戦略の相互作用(ニューロメカニクス)に注目して,ヒト身体運動の基盤である立位姿勢,歩行運動,およびそれらの遷移過程(歩行開始動作および歩行停止動作)における神経制御メカニズムを明らかにすることを目指す.ヒト身体運動の神経制御メカニズムを理解するうえで,モデルを用いた数値シミュレーション・解析は,運動計測と同程度に重要な役割を果たす. 本研究では,これまでにヒト歩行停止動作のバネ-質点モデルを構築することに成功した.バネ-質点モデルは比較的単純なモデルであるが,単純なモデルの利用は制御の本質を知るうえで大変重要な役割を果たす.バネ-質点モデルを用いて得られた知見をもとに運動計測実験,およびより詳細なモデルの構築・数値シミュレーションを行うことで,ヒト身体運動における神経制御メカニズムのより詳細な理解が期待される. 以上より,本研究は一定の成果をあげており,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,これまでにバネ-質点モデルを用いたヒト歩行停止動作の数値シミュレーション・解析により,歩行停止動作においてankle controlが重要な役割を果たすことを明らかにした.さらに,システムのサドル型不安定な状態空間に存在する安定多様体(身体の機械力学的特性)に依存した間欠的な制御により,よりロバストに歩行停止動作を成功させられることを明らかにした.これより,ヒトは歩行停止動作および歩行開始動作において,サドルの安定多様体あるいは不安定多様体を利用している可能性が高い. 本研究では,これらを運動計測実験およびヒト身体の神経-筋骨格系モデルを用いて明らかにする.若年健常者を対象とした静止立位姿勢,歩行運動,およびこれらの遷移動作(歩行開始動作および歩行停止動作)の計測実験を行い,身体ダイナミクスおよび筋活動を計測することで,これらの運動がシステムの安定多様体あるいは不安定多様体を巧みに利用していることを明らかにする.また,これらの動作を再現可能な神経-筋骨格系モデルを構築する.構築した神経-筋骨格系モデルの数値シミュレーション・解析の結果と計測実験結果を比較することで,運動制御において身体の機械力学的特性が利用されていることを定量的に評価する. 本研究では,運動計測実験と数理モデル実験の異なる二種類の方面からのアプローチにより,研究の遅延を回避する.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた論文の英文校閲などにかかる費用が不要となったため,次年度使用額が発生しました. 一方で,2018年度では,学会への参加費が予定していたよりも高くなるため,昨年度使用しなかった金額と併せることで対応します.
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