研究課題/領域番号 |
17K13026
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山岸 彩奈 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (00778293)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乳癌細胞 / 中間径フィラメント / ネスチン |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞を柔軟化することで癌転移を促進する中間径フィラメントネスチンを、生体内でノックアウトすることで癌転移を抑制する新規治療法の開発を目的とする。平成29年度は高効率にマウスネスチンのノックアウトが可能なgRNA配列の探索を行った。中間径フィラメントはヘッド、ロッド、テールの3領域で構成される。フィラメントの束化に寄与するロッドドメインにおけるgRNA配列を設計することで、繊維形成不全によるネスチンの消失が生じることを期待して、同領域におけるgRNA配列を探索した。gRNA配列予測ツールを用いてオンターゲットスコアの高いものから順に4配列を選択した結果、75%の確率でネスチンノックアウトを達成するgRNA配列を獲得できた。同配列を用いて次年度に生体内でのネスチンノックアウトを試みる。一方で、ネスチンKO効率とオンターゲットスコアの相関は低く、他のsgRNA設計ツールからオンターゲットスコアを求めると、KO効率と高い相関を示すsgRNA設計ツールも存在した。これらの結果は現存するsgRNA設計ツールに依存した最適標的配列の選択は未だ困難であり、細胞レベルのスクリーニングが必要であることを示唆している。 また、Cas9-gRNA複合体を包含する細胞外分泌小胞の作成、及びこれを用いて高転移性マウス乳癌細胞におけるネスチンノックアウトに取り組んだ。HEK293T細胞に対してCas9及びgRNA配列を発現するベクターを導入し、細胞膜表面に赤色蛍光タンパク質が提示された細胞外分泌小胞を培養液から回収した。これを細胞に添加することでネスチンノックアウトを試みたが、現在のところネスチン発現が消失した細胞は確認されていない。今後はまず抗Cas9抗体を用いたウェスタンブロットを行い、小胞内にCas9-gRNA複合体が包含されているかを解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネスチンノックアウトに用いるgRNAの性能評価が完了し、今年度の目標である生体内で使用する高効率遺伝子ノックアウト用配列の同定を達成したことから、研究は順調に推進している。そこで当初計画の前倒しを行い、Cas9-gRNA複合体を包含する細胞外分泌小胞の作成を行った。これを用いたマウス乳癌細胞におけるネスチンノックアウトが未だ確認されていないことから、次年度はまず目的の細胞外分泌小胞が形成されているかを確認するために、抗Cas9抗体を用いたウェスタンブロットで小胞内のCas9の検出を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に獲得した高効率マウスネスチンノックアウト用のgRNA配列を用いて、生体内におけるネスチンノックアウトに注力する。ウェスタンブロットで小胞内にCas9タンパク質が存在するか確認を行い、目的のネスチンノックアウト用小胞が作成できたかどうか評価する。さらに、pH感受性膜融合ペプチド等を用いて、細胞内にCas9-gRNA複合体を効率的に導入可能かどうか検討する。細胞に対して高効率にネスチンをノックアウト可能な系が確立できた後に、癌細胞を移植したマウスに対してネスチンノックアウトによる癌細胞の転移抑制効果を検証する。さらに、ネスチン高発現のヒト癌細胞に対してネスチン遺伝子のノックアウトを行い、ヒトネスチンにおいてもマウスネスチンと同様にノックアウトによる転移能の抑制効果が認められるか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
別事業における海外研修を約2か月行ったことから、当初予定していた細胞培養用の培地や消耗品類の使用に至らなかった。よって次年度の消耗品費用として使用する予定である。
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