中間径フィラメントネスチンは細胞を柔軟化する機能を有しており、その遺伝子破壊により癌細胞の浸潤性が低下する。本研究では、癌細胞のネスチンを生体内でノックアウトすることで癌転移を抑制する新規治療法の開発を目的とする。平成30年度は、ヒト神経膠芽腫細胞KG-1-Cを用いて、マウスネスチンとの相同性が約60%であるヒトネスチンでも細胞柔軟化作用を有するかどうかを検証した。ネスチン遺伝子破壊を行ったKG-1-C細胞を細胞膜修飾材BAMにより基板上に物理的に繋留することで細胞接着力に依存しない状態での弾性率を原子間力顕微鏡を用いて測定した。その結果、元株と比較してネスチン破壊株の弾性率が上昇したことから、ヒトネスチンも細胞柔軟化に寄与しており、その遺伝子破壊によりヒト癌細胞の浸潤を抑制できると考えられた。さらに、生体内でのネスチン遺伝子破壊に利用するCas9-gRNA複合体を含有する小胞を培地上清から回収する条件の検討を行い、ウェスタンブロットにより回収した小胞がCas9を含有していることが確認できた。そこで、この小胞をネスチン高発現の高転移性マウス乳がん細胞に対して添加し、免疫染色によりネスチンの発現を確認したところ約16%の効率でネスチンが消失したノックアウト細胞を獲得することに成功した。
|