ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素10(B10)と熱中性子の核反応を用いた放射線治療であり、既存の放射線治療より副作用の少ない治療法として期待されているものの、投与したホウ素化合物の腫瘍への集積は必ずしも十分ではないのが現状である。本研究は、高分子材料を基盤として、腫瘍に高度に集積し安全性と有効性を併せ持つ新たなBNCT製剤としてのナノ粒子の開発を目標とする。 両親媒性の高分子材料として、ポリエチレングリコール(PEG)とポリ乳酸(PLA)、そしてPEG末端のフェニルボロン酸(PBA)からなるブロック共重合体(PBA-PEG-b-PLA)を合成した。この高分子はホウ素を搭載しているためBNCT製剤になるのはもちろん、水中で自己組織化によりナノ粒子を形成し、さらにPBAはナノ粒子の表面に露出され、シアル酸への特異的結合能から、シアル酸高発現の転移性の高いがん細胞を選択的に認識する設計となっている。 ホウ素を搭載したナノ粒子(Boron-loaded Nanoparticle; BNP)のBNCT製剤としての有効性を評価するため、マウスメラノーマ細胞(B16-F10)を移植した担がんマウスに対し、BNPならびに既存の低分子ホウ素製剤であるボロノフェニルアラニン(BPA)を投与し、熱中性子による照射を行った。その結果、BNPは臨床で適用されているBPAの投与量(24 mg B10/kg)のわずか100分の1のホウ素10の量(0.24 mg B10/kg)で、BPAと同等の抗腫瘍効果を示し、対照群に比べて腫瘍の増殖を有意に抑制した。また、BPAは迅速に代謝されるため照射を行う間にまで投与し続ける必要があるが、本研究のBNPは徐々に腫瘍に集積されるため投与の48時間後など血中のホウ素は残っていない安全なタイミングでの照射が可能となる。
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