研究実績の概要 |
骨芽細胞の非存在下でも骨を形成する「骨誘導能」をもつ「自家骨」は、骨補填材として最も優れている。一方、リン酸カルシウム系人工骨は骨誘導能をもたないため、確実な骨癒合および早期治癒が得られない。そこで、2種類の「無機イオン」、すなわち、骨形成を促進する「ケイ素」および血管形成を促進する「銅」を利用して、人工材料のみで自家骨の「骨誘導能」に匹敵する「骨形成能」および「血管形成能」を引き出す高機能化人工骨を創製する。さらに、固体核磁気共鳴を用いて、今まで明らかにされていなかったリン酸カルシウム人工骨の結晶局所構造と生物学的機能発現との関連について、その機序を追求・解明する。
平成30年度は、昨年度に合成方法を確立したケイ素および銅含有リン酸カルシウム(Si-Cu-TCP)の溶解性について検討した。銅含有量の増加とともに溶解性、溶解速度が低下することが明らかとなった。溶解曲線の解析結果、Si-Cu-TCPの溶解は二成分(早い溶解成分と遅い溶解成分)からなる不均一溶解であり、溶解過程でSi-Cu-TCP表面に表面水和相が形成されることが示唆された。また、紫外可視分光分析、電子スピン共鳴の結果から、銅イオンはTCP結晶内に存在することが示唆された。さらに、抗菌性試験の結果、5, 10 mol%の銅を含むSi-Cu-TCPにおいて抗菌性の発現が見られた。
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