心不全はすべての心疾患の終末的な病態で、その生命予後は極めて悪い。また、高齢化社会の進展に伴い、心不全患者数は増加し、死亡数も増加の一途をたどっている。心エコー図検査は非侵襲的であり簡便に検査を行えるため、心不全診断において心ポンプ機能異常の有無を証明するうえで重要な役割を担っている。しかし、従来の心不全の病態評価は心内腔容積の変化率(駆出率)など、心形態に基づいてポンプ機能が悪化しているかどうかを評価するものであった。一方、近年開発されたVector Flow Mapping(VFM)を用いることで、左室腔内の血流ベクトルを解析することができ、心腔内に配置した仮想粒子の軌跡を表示することができる(流跡線解析)。これにより、血流の左室流入期から駆出期にかけての移動経路や流入血流の波面を表示することができ、心形態に依存せず心不全の病態生理に迫ることができる可能性がある。 本研究の目的はVFMの流跡線表示から算出される新規指標であるejection rate が心不全時にどのように変化するか検討することである。 平成30年度は、麻酔開胸犬を用いて、左冠動脈入口部からカテーテルにてマイクロスフェアを注入することで微小冠動脈塞栓による心不全モデルを作製した。心不全作製前後にエコー画像と左室圧波形を取得し、心不全作製前後のejection rateを算出した。流跡線解析の結果、左室内で血液のうっ滞が認められ、ejection rateは有意に低下した。Ejection rateは左室拡張末期圧、左室拡張末期容積、左室収縮末期容積、左室駆出率と有意な相関関係を示した。心不全モデルでは、左室腔内へ流入した血流のうち大部分が一心周期で駆出されず、左室内の血流効率が低下している可能性が示唆された。
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