多くのがんでは,リンパネットワークを介して腫瘍細胞が遠隔臓器に転移することが知られており,リンパ管の経路上に存在するリンパ節への転移は,転移の第一段階であると考えられている.したがって,リンパ節転移の効果的な抑制ががん治療成績を向上させると考えられる.しかし,従来のアプローチでは転移がん治療成績の飛躍的な向上は望めない状況にある.そこで,低侵襲,低費用で根治性の高いリンパ節転移治療法を開発することが喫緊の課題である. 本研究は,ヒトのリンパ節と同等のリンパ節サイズを有するリンパ節腫脹マウスを用いて,リンパ行性薬剤投与とソノポレーション法を組み合わせた効果的なリンパ節転移治療法開発をおこなった.転移腫瘍細胞はリンパ節内の辺縁洞と呼ばれる場所に最初に到達・生着し遠隔転移の起点になることから,リンパ節内辺縁洞の転移腫瘍細胞の効果的な治療が極めて重要な意味を持つ.研究代表者はリンパ行性薬剤投与法と高周波超音波を駆使し,転移リンパ節内での微小気泡の動態解析により,リンパ行性薬剤投与法は,高濃度の薬剤を転移リンパ節内辺縁洞に高濃度に集積させることを明らかにした.このとき,外部から微小気泡破壊用の超音波を照射すると,超音波の強度依存的に抗腫瘍効果が増大すること,抗がん剤に限らず分子量の大きい分子も転移リンパ節内細胞へ導入可能なことを明らかにした.また,節内浸潤を有するリンパ節転移に対してリンパ行性投与とソノポレーションによる治療は,リンパ節構造を維持したまま効果的に治療が可能であることを明らかにした(論文投稿中).これに加えて,マウス肺がんモデルに,免疫チェックポイント阻害剤(抗体医薬)を投与すると腫瘍抗原特異的リンパ球の活性化により腫瘍縮退が誘導されることから,超音波と微小気泡によってリンパ球への遺伝子導入が可能になれば,新たな免疫療法へとつながる可能性があるとの知見を得た.
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