背景及び目的:低左心機能である慢性心不全症例は、心室性不整脈のハイリスク群であり、植え込み型除細動器(ICD)が広く使用されている。しかし、重症心不全例では除細動閾値が高く、致死的不整脈出現時にショック治療にて洞調律復帰ができない例もしばしば存在する。現在本邦で薬事承認されている全てのICDの初期設定では、ショック治療の通電時間である「パルス幅」は自動設定であるが、通電時間が長すぎることで除細動効率が低下している可能性がある。本研究の目的は、除細動閾値が高い症例において、手動にて至適「パルス幅」設定を行うことで除細動閾値を低下させ、より有効な除細動治療を行うことができるかどうかを検討することである。 具体的な研究内容:豚の急性心筋梗塞による心不全モデルを作成し、ICDを植え込む。ペーシングにより心室連続刺激を行い、心内心電図上で脱分極時の第 0 相から第 1 相の peak to peak の長さを測定して心筋反応速度を求める。また、リード抵抗値など、各種電気的パラメータを測定し、至適「パルス幅」を決定する。ICDより直流通電を行い、心室性不整脈を誘発し、工場出荷時の初期設定である「チルト固定設定」にて除細動閾値テストを行う。次に同様の方法で、今度は「パルス幅固定設定」にて除細動閾値テストを行う。「チルト固定設定」と「パルス幅固定設定」のどちらが除細動閾値が低く、より有効な除細動治療を行うことができるかを検討した。 結果:16頭の豚に対して、除細動閾値試験を行った。16頭中13頭において、「パルス幅固定設定」が「チルト固定設定」に比して、除細動閾値が低く、より有効な除細動治療を行うことができた。2頭は、どちらの設定においてもICDにおいて除細動ができず、体外式除細動器を使用して除細動を行った。 本研究結果を米国不整脈学会学術集会において発表を行っている。
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