研究実績の概要 |
リポタンパク質であるリーリン (reelin) は正常な脳形成、特に大脳皮質6層構造の形成に必要な分子である。ホモ結合型 (-/-) リーラーマウス (reeler) では皮質6層の構造が逆転することから、本研究では皮質機能解析に用いた。ホモ結合型リーラーマウスに加えて、皮質特異的にリーリン下流をノックアウト可能なfloxed Dab1マウスを用いて、それらのマウスでは、ワイルドタイプ (WT)マウスに比べて大脳皮質錐体細胞での必要な電気刺激閾値が高い事を証明した。またその刺激閾値が層構造由来である事を示した。
さらに、ヘテロ結合型 (rl/-) リーラーマウスでの上肢把握運動学習がWTに比べて遅い事、運動学習によって引き起こされる運動領域可塑性が制限されている事を明らかにした。制限される原因としては皮質の抑制性神経異常(シナプスの長期増強が起きない可能性)が考えられた。ヘテロ結合型では前頭葉の抑制性神経数が半減しており (Schizophr Res. 100(1-3):325-33, 2008)、精神分裂症のモデルとしても使用されている。精神分裂症・躁鬱患者において、特に細かな高次運動機能に制限が見られる事は多数報告されている。以上を考慮すると、リーリンは皮質運動領域可塑性制御のkey player と成り得るタンパク質と考えられる。今後はリーリン分泌神経細胞、リガンド、下流Dab1を含む細胞内シグナルなどに着目する。
最後に、脳梗塞後の上肢運動療法 (リハビリテーション) に伴う神経可塑的変化が感覚神経に依存しているのかを明らかにする為に梗塞モデルの作成と感覚神経障害モデルを確立した。現在、順行性と逆行性トレーサーで代償神経回路形成解析、また免疫染色による筋神経筋接合部、筋組織解析と後根神経節の構造解析を行っている。
|