本研究の目的は(1)前庭直流電気刺激(GVS)実施時の立位姿勢制御機能を定量的に評価することによって前庭機能に関わる姿勢制御機能を明らかにすること,(2)GVSによる前庭覚刺激時の脳活動を計測することであった. (1)に関する研究はTopics in stroke rehabilitationに採択された.この研究には健常者49名と脳卒中患者30名が参加した.すべての対象者は,GVS時の立位姿勢安定性を計測した.対象者は第7頸椎棘突起上にワイヤレス小型加速度計を設置し,GVS時の立位身体動揺速度を計測した.脳卒中患者は健常者と比較してGVS時の身体動揺速度が有意に減少した.さらに,脳卒中患者のGVS時の身体動揺速度は麻痺側下肢運動機能と正の相関関係が認められた.発症時期による分類では,慢性期が急性期の患者と比較してGVS時の身体動揺速度が有意に減少した.脳卒中患者は前庭脊髄反射を含む立位姿勢制御反応が低下している可能性が示唆された. (2)に関する研究は,現在,Somatosensory and Motor Researchに投稿中である.この研究には健常成人45名が参加した.対象者には機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてGVS時の脳血流動態反応を計測した.さらに,硬い床面上と柔らかい床面上で開眼および閉眼条件での立位保持能力を評価するmodified clinical test of sensory interaction and balanceを実施した.GVS時の血流動態に関して,頭頂弁蓋や中心弁蓋,下前頭回弁蓋部を含む島周辺領域の増加が認められた.特に,中心弁蓋の血流反応は柔らかい床面上での閉眼立位時の身体動揺速度と負の相関関係を示した.柔らかい床面上での立位は前庭覚優位の姿勢制御戦略が必要となる.中心弁蓋は,前庭機能を含む姿勢安定性に関係する可能性がある.
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