研究実績の概要 |
骨盤臓器脱患者の発生要因として肥満や多経産、慢性的な腹圧動作などの環境因子があるが、比較的若年者・未経産婦や家族歴を有する患者の存在から「骨盤臓器脱発症のしやすさ」といった遺伝的背景の関与が示唆されている。しかし、日本人の骨盤臓器脱と遺伝的背景に関する報告は殆どない。骨盤内臓器を体幹の最も底部で支える骨盤底はコラーゲンやエラスチンといった結合組織でできており、骨盤臓器脱発症のリスクとして、コラーゲンやエラスチンに関する蛋白の遺伝子多型に注目した。 我々は、TaqMan SNP Genotyping Assayを用いて骨盤臓器脱患者の末梢血白血球由来DNAを抽出し、コラーゲンtype3遺伝子多型(rs1800255、rs1801184)を健常者と比較した。しかし、骨盤臓器脱患者群と非患者群の差を認めなかった。さらに、コラーゲンtype1やコラーゲンとエラスチンの架橋形成に関与するLysyl oxidase like-1、-4(LOXL-1,-4)の遺伝子多型の検討を追加した。その結果、LOXL-4の遺伝子多型(rs2862296)で骨盤臓器脱発症の高リスクとなる可能性が示唆された(オッズ比3.8~4.5倍)。 骨盤臓器脱発症高リスクとなる遺伝子多型を調べ、早期の理学療法の介入により発症や重症化の予防につなげる事を将来の展望としている。
また、基礎実験として、骨盤底脆弱性に起因する腹圧性尿失禁モデルとして出産擬似ラット(腟急性拡張)にくしゃみを誘発することで腹圧を上昇させ、トラマドールを用いてその際の尿道機能評価を行った。骨盤臓器脱患者の尿道機能の障害機序として、骨盤底の形態学変化のみでなく神経学的変化(内因性尿道括約筋不全)の可能性が示唆された。
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