研究実績の概要 |
近年,運動感覚の知覚を治療アプローチとして応用し,ギプス固定による運動機能の低下予防や疼痛抑制に効果があることを示した報告が散見される。これらの運動感覚の知覚に関する研究では,運動を知覚しないような感覚入力をコントロールとして用い,感覚入力自体ではなく,感覚入力によって運動を知覚させることの必要性が論じられている。運動感覚の知覚という心理状況は,被験者の主観を基に評価されることが多く,知覚の誘導を客観的かつ簡便に判断する指標はない。この点において当該研究は,臨床応用を見据え,運動感覚の知覚を簡便に評価するための生理学的指標を確立するというところに意義があった。 当該年度は,平成30年度より継続して,α周波数帯域の他にβ周波数帯域を解析対象に追加し,運動感覚の知覚が誘導されているかを示すバイオマーカーを検証した。その結果,運動感覚の知覚が誘導されている場合は,頭頂葉のα周波数帯域に事象関連脱同期が生じるが,β周波数帯域の脳波には変化が生じないことが明らかになった。さらに,運動前野と頭頂葉のα周波数帯域における事象関連脱同期を組み合わせて解析することで,運動感覚の知覚が誘導されていることを客観的に判別できることを示した。これは頭皮上脳波を用いたBrain-Machine-Interfaceのバイオマーカーとして、頭頂葉のα周波数帯域の脳波信号を利用できる可能性を示唆するものである。以上の内容を論文にし、Experimental Brain Researchに受理された(Shibata E, et al., Exp Brain Res, 2019)。
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