運動感覚の知覚を治療アプローチとして応用し、ギプス固定による運動機能の低下予防や疼痛抑制に効果があることを示した報告は近年散見される。これらの運動感覚の知覚に関する研究では、運動を知覚しないような感覚入力をコントロールとして用い、感覚入力自体ではなく、感覚入力によって「運動を知覚させる」ことの必要性が論じられている。運動感覚の知覚という心理状況は、被験者の主観を基に評価されることが多く、知覚の誘導を客観的かつ簡便に判断する指標はない。この点において当該研究は、臨床応用を見据え、運動感覚の知覚を簡便に評価するための生理学的指標を確立するというところに意義があった。 当該年度は、新型コロナウイルス感染症の感染対策に留意しながら、ヒトを対象としたデータ測定を実施した。また、関連学会に参加し、研究内容に関わる情報収集とディスカッションを行なった。前年度までに十分な数のデータ測定を行うことができていなかったため、それらの実験についてもデータを追加し、あらためて再解析を実施した。これらのデータは、表面筋電図で記録した筋活動を指標として用いることで、運動感覚という心理状況を客観的に評価できる可能性を示唆したものであり、感覚運動機能障害のリハビリテーションアプローチとして運動感覚を応用する際の汎用性向上に繋がる知見であり、次年度以降に関連学会にて報告する予定である。さらに、運動感覚を能動的に脳内再生した場合、運動実行と共通した神経基盤が駆動することについて、具体的な研究成果に最新の知見を交え、解説論文をまとめた(JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION,2023)。
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