研究の背景として、末梢動脈疾患患者の数は著しく増加しており、重症下肢虚血へ進行する症例は5~10 %と下肢切断においては2~3 %に至る。これらより糖尿病時における下肢の循環調節機構の変化を解明することは急務である。下肢の動脈と静脈には多くのα1-アドレナリン受容体 (α1-AR) サブタイプが発現しており、サブタイプ受容体特異的に血流調節を行っていると考えられているが、その詳細な生理的意義は明らかではない。糖尿病は下肢の閉塞性動脈疾患の危険因子であるが、糖尿病時の動脈と静脈のα1-ARサブタイプの発現量や機能変化は明らかではない。本研究課題ではモデル動物の膝窩動脈および静脈を用いて、糖尿病におけるα1-ARサブタイプの機能変化を明らかにし、下肢閉塞性疾患における循環調節機構の変化を検討することを目的としている。実験には8週齢のWistar系雄性ラットを用い、膝窩動脈と静脈を摘出し輪状血管標本を作成した。α1-作動薬であるフェニレフリン (PE: 0.1 μM-30 μM) の濃度依存性反応を取得後、α2-AR選択的拮抗薬 (ラウオルシン) 存在下で、プラゾシン、5-MU、シロドシンの効果について等尺性張力を記録し検討した。プラゾシンは膝窩動脈と静脈でのPE収縮をともに抑制した。一方、シロドシンと5-MUは膝窩動脈でのPE収縮を抑制したが、膝窩静脈のPE収縮に影響を与えなかった。さらに、膝窩動脈においてプラゾシンおよび5-MU存在下でシロドシンは、PE収縮を競合性に抑制した。以上の結果より、ラット膝窩動脈平滑筋では、α1L-ARがPE収縮に関与していることが示唆された。
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