研究課題/領域番号 |
17K13062
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
相良 亜木子 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10767916)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | サルコペニア / 慢性心不全 / リハビリテーション医療 / 基礎代謝量 |
研究実績の概要 |
近年,慢性心不全患者に対するリハビリテーション治療においては,サルコペニアが注目されている.本研究は①高齢の慢性心不全患者のサルコペニアの実態を調査し,心疾患の病態との関連を明らかにする,②慢性心不全患者の基礎代謝量について,適切な推算方法を開発する,③慢性心不全患者に対するリハビリテーション治療における適切な栄養管理を明らかにする,以上の3点を目的とする. 平成29年度の実績を以下に示す. ①入院中に心臓リハビリテーションを実施した高齢(65歳以上)の慢性心疾患患者69例(男性29例,女性40例,平均81.0±7.3歳)について,体組成および握力や歩行能力を調査した.骨格筋指数(SMI)は男性6.7±1.0kg/m2、女性4.9±0.7kg/m2)で,48例(69.6%)で骨格筋量低下を認めた.男性で58.6%,女性で77.5%と,特に女性に多い.これらの患者の体組成の特徴は,体脂肪率が31.4±8.6%と高く,BMIは22.1±3.4kg/m2とやせていなくても,骨格筋量が少なかった.「サルコペニア肥満」と言われる状態である.また骨格筋量低下がある例も,心収縮能は57.0±14.0%と保たれるHFpEF患者であった. ②慢性心疾患患者の基礎代謝量について,臨床栄養でしばしば用いられる身長および体重から推算するHarris-Benedictの式による基礎代謝量と,除脂肪量から推算するCunningham式による基礎代謝量を比較した.Cunningham式による基礎代謝量が,Harris-Benedictの式による基礎代謝量を上回る例が多く,その割合は骨格筋量低下を認める症例で多い傾向にあった.栄養療法において基本となる基礎代謝量を適切に設定することは,骨格筋量低下,すなわちサルコペニアではきわめて重要であり,その基礎代謝量の推算式を新たに開発することが求められる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高齢慢性心不全患者のサルコペニアの実態を調査するにおいては,対象を京都府立医科大学附属病院循環器内科入院中に,心臓リハビリテーションを実施した患者とし,特に心肺運動負荷試験(CPX)を実施可能な患者を予定していたが,ペースメーカーなどのデバイス留置の患者や心不全による浮腫が強い患者等ではインピーダンス法による体組成計を用いた体組成計測が適切ではなく,また超高齢者や低ADL患者ではCPXの実施が困難であるため,対象となる症例が限られた.そこで,対象患者を心臓血管外科入院中の患者にも拡大し,またCPX実施の可否を問わないことに変更し,調査項目を一部変更することとした. また,慢性心不全患者の基礎代謝量について,適切な推算方法を検討するにあたり,慢性心不全患者の基礎代謝量を安静時呼気ガス分析による計測を行う予定である.当初は慢性心不全が急性増悪し,入院をした患者を対象とし,心不全の急性期治療後に,全身状態が安定した時期に基礎代謝量を実測することを予定していたが,心不全の増悪や各種治療の影響を除くため,対象を再考し,検査や手術等の治療予定で症状の安定した慢性心不全の入院患者へ変更することとした.検査計画について各診療科や検査部門等との調整を行っており,近日開始を予定している.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究により,慢性心不全患者において骨格筋量低下,すなわちサルコペニアを認める例が多いことが明らかになった.サルコペニアは疾患,活動,栄養が原因として大きな要素であり,これらの患者において,リハビリテーション治療を実施する際には,その効果を発揮する上で栄養サポートが不可欠と考える.どのような栄養療法を行うかを決定するための基本となる基礎代謝量を適切に設定することはきわめて重要であり,サルコペニアを認める患者の基礎代謝量の推算式を新たに開発することが求められる.その上で,栄養療法を併用するリハビリテーション治療の効果を明らかにしたい.そこで,平成30年度の研究は以下のようにすすめる予定である. ①平成29年度の研究成果をさらに発展させ,慢性心不全の病態とサルコペニアの関係を明らかにする. ②慢性心不全患者の基礎代謝量を呼気ガス分析により計測し,臨床栄養でしばしば用いられる身長および体重から推算するHarris-Benedictの式による基礎代謝量と,体組成計測での除脂肪量から推算するCunningham式による基礎代謝量,さらに安静時呼気ガス分析検査により実測した基礎代謝量を比較することで,慢性心不全における適切な基礎代謝量の推算法について検討する.また,慢性心不全患者の日常生活における活動量を3次元加速度活動量計の装着により計測し,明らかにする.これらから,慢性心不全患者の日常生活におけるエネルギー消費量を推測する推算式をあらたに開発する. ③慢性心不全患者に対し,このエネルギー消費量に基づく栄養療法を併用するリハビリテーション治療を行う.この際に,栄養サポートとして栄養量やタンパク質を付加することで,より高いリハビリテーション治療効果が認められるかを比較検討する. 以上より,慢性心不全患者に対するリハビリテーション治療における適切な栄養療法を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として体組成計の消耗品を購入するに際し,納入価格交渉を行った結果,割引となったため,少額であるが次年度使用額が生じる結果となった. 次年度の物品費として,消耗品購入の費用の一部とする方針である.
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