近年,慢性心不全患者のリハビリテーション治療において,骨格筋量減少,すなわちサルコペニアが注目される.本研究では平成30年度に①心疾患で手術予定患者のサルコペニアの実態を調査し、心疾患の病態との関連を検討した。また②新たなサルコペニアの診断アルゴリズム(EWGSOP2)が示され,筋質の評価が注目されており,心疾患患者の筋質の検討を加えた.さらに③心疾患治療後に栄養指導・運動指導を実施した高齢患者の体組成や身体機能の変化の有無を検討した. 平成30年度の実績を次に示す. ①心疾患手術予定の高齢者35例(平均73.9歳)の体組成および握力や歩行能力を調査した.8例(23%)がサルコペニアと診断された.骨格筋量と握力,BMIに相関を認めた.サルコペニアは,虚血性心疾患よりも心臓弁膜症で多い傾向にあり,BNPが高く,BMIが低値を示した.心不全に伴い,カヘキシアから骨格筋量が減り,体重減少に至ったと考えた. ②高齢の大動脈弁疾患患者39例(平均82.9歳)の身体機能や体組成とあわせて,筋質をBIA法による位相角により評価した.位相角は4.2±0.8°で,握力や歩行速度と相関を認め,サルコペニア患者で低かった.心疾患患者では筋量だけでなく筋質も低下すると考えた. ③経カテーテル大動脈弁留置術を施行した高齢患者に,術後回復期リハビリテーションと退院時栄養指導・運動指導(有酸素運動中心)を実施した. 6か月後に再評価した6例(平均85.7歳,退院時にエネルギー必要量の118%(中央値),タンパク質1.1g/kg/day(中央値)を摂取)では,BNPは低下傾向,体重と体脂肪率は増加傾向で,握力や歩行速度,骨幹筋量は改善に乏しかった.心不全改善により栄養状態は良好となるが,活動増加に至らず,身体機能や骨格筋量が改善しなかったと考えた.長期的なリハビリテーション治療や運動指導の再考が必要である.
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