骨格筋萎縮は患者のQOLの低下につながる重篤な状態であるにも関わらず、その治療法は確立されていない。本研究では、運動による骨格筋肥大のメカニズムにおいて『硫化水素(H2S)によるタンパク質S-スルフヒドリル化修飾』がトリガーとして機能していることを明らかにする。まず、H2Sがマウス骨格筋細胞株C2C12筋管細胞の肥大に及ぼす影響を検討した。ガス状生理活性物質であるH2SドナーであるNaHS(硫化水素ナトリウム)を用いて筋管直径計測によって検討した所有意に筋管直径の増大が観察された。 平成29年度は硫化水素のよる骨格筋肥大のシグナル特定を目指し、検討を行った。C2C12筋管細胞へのH2Sドナー(GY4137)添加によって筋合成系蛋白質(mTOR・S6 kinase)・細胞骨格タンパク質(ミオシン・アクチン・チューブリン)の発現上昇、活性上昇が観察された。平成30年度は将来的な栄養学的治療法を見据え、生体内でH2Sドナーとして機能することが予想されるアミノ酸であるシステインを用いて骨格筋肥大効果を検討した所、筋管細胞における筋合成系蛋白質(mTOR・S6 kinase)の発現、活性上昇が明らかとなった。 現在C2C12細胞を用いて、生体内H2Sのシステイン由来産生機構をH2Sアッセイによって、骨格筋におけるH2S産生酵素として知られる3つの酵素(シスタチオニン-シンターゼ:CBS・シスタチオニンγ-リアーゼ:CSE・3-メルカプトピルビン酸サルファトランスフェラーゼ:3MST)のうち責任酵素特定を目指し、検討中である。
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