本研究の目的は,スポーツ現場や臨床現場で苦慮する筋スティフネス増加メカニズムについて脊髄興奮性に着目して,解明することである.本年度は,伸張性収縮を伴う筋損傷における筋スティフネスの変化に関する研究①と我々の先行研究で筋スティフネスを増加させることが明らかとなっているアイシングによる筋スティフネスおよび脊髄興奮性の変化についての研究②を行った.研究①では,健常若年男性28名を対象に,膝伸展筋群を対象に60回の最大伸張性膝伸展運動を行った.伸張性収縮前後および2日後の筋スティフネスをせん断波エラストグラフィー機能を用いて検討した結果,全ての時期において有意な変化は認められなかった.これらの結果より,伸張性収縮に伴う筋損傷では,筋スティフネスが変化しないことを明らかにした.また,研究②においては,健常若年男性16名を対象に20分間のアイシングを行い,アイシング開始後,5分毎に内側腓腹筋の筋硬度および脊髄興奮性(H/M ratio)を測定した.その結果,内側腓腹筋の筋硬度はアイシング開始10分後より有意に高値を示した.一方,脊髄の興奮性の指標であるH/M ratioには全ての時期において有意な変化は認められなかった.これらの結果より,アイシングによる筋硬度の増加には,脊髄興奮性の変化が関与しないことが明らかとなった.本研究結果より,末梢における筋スティフネス変化には脊髄レベルでの変化ではなく,温度変化に伴う筋組織の粘弾性の変化などが関与していることが明らかとなった.
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