申請者は、平成29年度、平成30年度に引き続き、言語・計算・ワーキングメモリ課題の機能的MRI実験データに基づく解析結果を論文にまとめた。30名の非右利き被験者について、言語課題と計算課題に共通して左右下前頭回(ブローカ野)に有意な神経活動がみられた。脳の各領域において側性化指標を計算したところ、下前頭回を含むシルヴィウス溝を中心とした言語関連領域において、言語と計算に共通して脳活動パターンが側性化することが明らかになった。言語と計算の側性化指標の相関はブローカ野後方に位置する中心前回で最も高かった。この結果は2020年3月にCortex誌に掲載された。 さらに、6名の被験者に7日間にわたり文章刺激を読み/聞き条件で与えた際の脳活動データを解析した。得られた脳活動データに対し、文章刺激から抽出した意味特徴量および音韻特徴量を組み合わせたBanded-Ridge回帰を実施した。結果として、音声と文章のクロスモーダルな情報を担っている脳領域と、注意選択的な言語情報を担っている脳領域を明らかにし、Society for Neurobiology of Language 2019および脳と心のメカニズム第20回冬のワークショップにおいて発表した。現在、その結果を論文にまとめ、投稿準備をしている。 続いて、言語、計算、ワーキングメモリを含む多様な認知機能の関係を明らかにするため、認知課題を100種類以上用意し、6名の被験者に対し3日間にわたりMRI実験を実施した。得られた脳活動に基づいて課題間の階層的関係を可視化した。その結果、言語と記憶はヒトの認知機能の中でも大きなクラスターをそれぞれ形成していることが明らかになった。この研究はNature Communications誌に掲載され、日本経済新聞をはじめとする各種メディアでも取り上げられた(2020年3月10日)。
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