本研究の目的は,「自動車運転認知行動評価装置」(特許第5366248号)を利用し,脳疾患患者の自動車運転の特性を明らかにすることである. 具体的には,脳疾患患者を対象に上記装置を使用して,模擬運転テストを実施し,既存の健常者データとの比較から脳卒中患者の模擬運転時のハンドル・アクセル・ブレーキの操作応答や手掌部発汗反応(Palmar sweating response:PSR)と皮膚電位反射(Skin Potential Reflex:SPR)を用いた危険予測能力の特性を明らかにすることを目的としている.令和2-4年度は携帯型「自動車運転認知行動評価装置」を用いて,信州大学医学部附属病院リハビリテーション部スタッフの協力の下,データ計測を行った.研究期間全体を通して32例のデータ計測を実施した. これらのデータを解析し,脳損傷後の患者では本模擬運転テストによって危険予測の有無やブレーキ・アクセルの誤操作などが高頻度で検出できる可能性が示唆された.また症例特有の運転反応などを明らかにした. また,令和4年度は神経心理学的検査の結果を含めた解析実施し,注意機能が模擬運転時の操作反応および手掌部発汗に与える影響の検討を行った.その結果,危険予測場面では操作反応に差はなかったものの,注意機能が良好な群では手掌部発汗量が高くなることが明らかとなった.これは,注意深く状況を観察することで生じる緊張感により精神性発汗反応が出現したためと考えられる.従って,模擬運転テストにおいて,注意機能は運転操作反応だけではなく,危険を予測する場面での情動反応にも影響する可能性が示された.
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