足部への荷重環境において、踵骨回内外に下腿回旋が伴って生じる(以下、踵骨-下腿の運動連鎖)。この運動連鎖は変形性膝関節症(以下、膝OA)の発症・進行に関与する可能性がある。膝OA歩行で特に問題となるのは、立脚初期のラテラルスラスト(以下、LT)であり、この抑制には外側ヒールウェッジが古くから用いられてきた。しかし、その効果に十分なエビデンスはなく、この背景には踵骨-下腿の運動連鎖の影響がある可能性がある。 当該年度では、まず踵骨-下腿の運動連鎖と立脚初期の膝関節制御の関係について検討した。健常成人を対象に、運動連鎖の動態の指標であるKinematic Chain Ratio(以下、KCR)を計測した。また、三次元動作解析システムと床反力計を使用した歩行解析を実施し、立脚初期の膝関節内反角度とKCRや各パラメータとの関係を調べた。その結果、KCRが小さく、後足部の回内運動が大きいほど膝関節は内反位になること、膝関節が外旋位で内旋運動が大きいほど膝関節は内反運動をすることが分かった。このことから、LTは踵骨-下腿の運動連鎖の影響を受ける可能性が示唆された。 次の検討として、踵骨-下腿の運動連鎖と膝OAおよび外側ヒールウェッジ効果の関係について調べた。膝OA者を対象に、慣性センサを用いてKCRおよび歩行の計測を行った。歩行の条件は、裸足・踵補高パッド・4mmウェッジ・10mmウェッジの4つとし、Loading Responseにおける各パラメータの条件間比較や関連性を分析した。その結果、KCRは平均1.4であり、先行研究と概ね同値であった。また、踵補高パッドや4mmウェッジに対して10mmウェッジで下腿内旋や踵骨回内が大きく生じるほどLTが小さいことが分かった。これは踵骨-下腿の運動連鎖がLTの制御に関与することを支持する知見であるが、KCRとの特筆すべき関係は認めなかった。
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