本年度は、前年度のMRI実験にて力調節のパフォーマンスと関連する傾向が認められた運動前野に対して静磁場刺激による介入を施し、力調節パフォーマンスが改善するかを検討した。実験では、経頭蓋的磁気刺激により同定した一次運動野を基準に、左運動前野の場所を特定した。その場所に対して、ネオジム磁石を頭皮上に置く静磁場刺激条件、ネオジム磁石と同じ形状のステンレスを置くシャム刺激条件を設定し、それぞれ15分間刺激した。運動課題として、右手示指と母指で等尺的にフォースセンサーを把持し、瞬間的な把持力発揮を行った。最大把持力の20%の力を標的に、30回分の変動係数を力発揮のばらつきと評価した。介入前、介入開始から5分後、介入開始から10分後、介入終了直後、介入終了から5分後にそれぞれ30回の力発揮課題を行った。その結果、刺激条件の主効果や交互作用は認められなかった。このことから、本研究で用いた実験課題、実験条件においては、運動前野への静磁場刺激が力調節の安定性に与える影響は認められなかった。本実験で刺激対象とした運動前野は、MRI実験にて力調節の安定性と関連する傾向が認められたが、 力のばらつきを生む直接の原因ではなかったのかもしれない。あるいは、運動前野が力調節の安定性に寄与しているとしても、静磁場刺激による興奮性抑制作用が力調節の機能を変化させるほど強いものではなかった可能性も考えられる。今後、簡便な静磁場刺激による運動機能改善を目指すにあたり、刺激対象領域、運動課題をより綿密に検討する必要があると考えられる。
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