本研究は体育教師教育におけるICTを活用した指導力の育成・向上の在り方について検討し、ICT活用指導力育成プログラムの開発に向けた基礎的資料を得ることを目的としている。 最終年度にあたる2022年度は、前年度(2021年度)の研究成果──すなわち、体育授業におけるICT活用が従来から指摘されてきた体育授業や体育教師をめぐる諸課題を克服する可能性があるとともに、そのこと自体が今後のICT活用促進に向けた教師教育における考え方の1つとしてありうるという示唆──に対して、より理論的な立場から批判的に検討することで新たな研究課題を見出そうと試みた。具体的には、現代テクノロジーを批判的に見るハイデガーやイリイチの理論を援用しながら、体育授業におけるICT活用の隠された負の側面を浮かび上がらせることができた。これらの成果は、国際学会、各種の教員研修会、論文、機関誌、書籍などを通して発表した。 本研究の期間全体を通した成果をまとめると、まずは現職の体育教師及び教員養成課程の大学生におけるICT活用指導力の実態を定量的・定性的に把握できたことがあげられる。そして、そういった表層的な諸課題に対する方法論的な解決策だけでなく、さらに深層の課題を理論的に明らかにしたことで、いかに体育教師の信念変容を促すかという実践上の課題も見えてきた。そのような中で生じた新型コロナ禍を契機として、ICT活用の意義と促進についての方向性(問題解決型研修及び協働的アクションリサーチの援用による教師の主体的な学びの促進可能性)が明らかとなった。他方、そのアンチテーゼとしてのICT活用の促進に伴うネガティブな側面も明らかにした。これらを踏まえて、今後はICT活用における功罪の両側面を意識したICT活用の促進に向けた体育教師教育システムの構築を検討するという新たな研究課題を見出すことができた(2023年度新規科研費採択)。
|