研究課題/領域番号 |
17K13127
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
羽谷 沙織 立命館大学, 国際教育推進機構, 准教授 (10576151)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | カンボジア / 古典舞踊 / 観光 / ゲイ古典舞踊団 / 継承者 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
産前産後休業および育児休業から復職し、2018年4月から本格的に研究に再着手した。2018年度の研究成果は国際学会・国内学会での口頭発表および論文の執筆であった。テーマは、「カンボジア古典舞踊の観光化:観光舞踊が担う「正しい」クメール文化の表象と妥協」(科研若手研究B)とした。2018年5月に2週間カンボジアを訪問し、新しい舞踊インフォーマント(プルンソドゥク・オク)と面会できたことから、カンボジア初のゲイ古典舞踊団の足取りを追い、ダンサーにインタビューをし、カンボジアにおける古典舞踊の新しい位置づけを考えることができた。これは当初の計画にはない、大きな収穫であった。とくに、これまでカンボジア古典舞踊はその担い手を女性としてきたが、2015年にゲイ古典舞踊団が設立したことを契機に、国内では誰を古典舞踊の継承者として位置づけるのか、つまり「正しい」クメール文化の表象を誰の手に委ねるのかに関する新しい議論が巻き起こっている。2019月2月、フォローアップ調査を実施し、さらにプルンソドゥク・オクを中心とする舞踊団メンバーにインタビュー調査をした。これらの蓄積は、カンボジア舞踊研究にあたって新しい知見をもたらした。これらの研究蓄積は、国際・国内学会での口頭発表および英語論文執筆へとつながった。論文はAsia Pacific Education Journal、日本比較教育学研究に投稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、新しい舞踊インフォーマントであるカンボジア初のゲイ古典舞踊団設立者プルンソドゥク・オク氏と面会できたことから、本研究は大きく前進した。これは当初の計画にはない予想外の収穫であった。この舞踊団は2015年に設立した若い団体であり、このゲイ古典舞踊団こそがカンボジア国内における「正しい」クメール文化の表象をこれまでの女性舞踊家に委ねるのか、それともオルタナティブに委ねるのかという継承者に関するせめぎ合いの議論を生んでいる。この議論の中核をなすインフォーマントとの出会いは、国内学会・国際学会における口頭発表、英語論文の執筆につながり、当初の計画以上に進展していると言える。 この他、本科研の課題であるカンボジア古典舞踊の「観光化」については、シアム・リアプ州でのフィールドワークも実施することができた。観光の文脈におけるカンボジア古典舞踊は観光資源としての商業性を持つものと認識されるものの、他方、現地での調査からは、カンボジア女性のエンパワーメントにつながるようなコンテンポラリー舞踊団も出現していることが分かった。カンボジアの古典舞踊が従来の枠を超え、新しい形へと変容しようとしている時流に恵まれ、研究が前進した。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は、当初の計画に沿って、おもに1.カンボジアおよび東南アジアの舞踊、観光、文化政策に関する文献の収集・整理・分析を進め、2.観光地シアム・リアプ州における舞踊教育と舞踊演出に関する現地調査を続行し、3.それらの調査を国内外の学会・研究会において口頭発表し、さらに論文化していく。昨年度、予想外に出会うことができたカンボジア初のゲイ古典舞踊団設立者プルンソドゥク・オク氏およびダンサーへのインタビュー調査もカンボジア渡航の際に実施する予定である(2019年9月および2020年2月)。 他方、研究協力者のサム・アーン教授(パンニャサ大学)には、カンボジア国内における古典舞踊をめぐる議論について意見交換をし、とくに保守派の議論(カンボジア古典舞踊はユネスコの無形文化遺産に登録されており、女性継承者が前提条件となっている、カンボジア国内にはゲイなどオルタナティブな継承者を受け入れる文化的準備が整っていないなど)について意見を伺う。必ずしもゲイ古典舞踊団を歓迎しない議論も含め、カンボジア国内における「誰を古典舞踊の正当な継承者とするのか」について検討する。 2019年度は、プルンソドゥク・オク氏が日本を訪問することとなり、2020年に予定していたカンボジア国内での「カンボジア古典舞踊の公開講座」を日本において実施することを計画している。研究成果を日本社会に還元する好機ととらえ、柔軟に対応したい考えである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、当初予定していたカンボジア舞踊関連図書購入費を全額使用しなかった。図書を購入せずに、現地で収集したフィールドワーク・データをもとに国内外の学会・研究会での口頭発表および論文執筆を行ったためである。それは、ひとえに現地調査において、カンボジア初のゲイ古典舞踊団設立者と会うことができ、彼とゲイ・ダンサーへの集中したインタビュー調査を通して、当初の計画よりも多くのデータを収集できたことが理由となっている。2019年度は、カンボジアおよび東南アジア舞踊関連図書を購入し、これらのデータを裏付けする文献を入手しながら、理論の精緻化に努めたい。
|