最終年度にあたる2020年度は、新型コロナ感染症の影響を受けカンボジアでの現地調査が叶わない状況であった。そのため、渡航を伴わずに研究を進めるよう工夫をした。工夫の第1点目は、論文の投稿(羽谷沙織(2020)「カンボジア古典舞踊ロバム・ボランの継承におけるクメール系ディアスポラの影響」立命館大学人文科学研究所紀要125号、pp.315-341)およびオンライン研究会(羽谷沙織(2020)「カンボジア古典舞踊ロバム・ボランの継承におけるクメール系ディアスポラの役割」 東南アジア教育フォーラム、2020年12月5日)での発表を行った点である。 工夫の第2点目は、本研究の主要インフォーマントであるプルムソドゥン・アオクをゲストとして招いたオンライン・パフォーミング・アーツ座談会「いのちの橋を渡る音色(Phleng Spean Chivit)の創作をめぐって―阿古耶姫の伝説、伝統、自然―」を実施した点である。この座談会は、2021年3月26日(金曜日18:00-20:00)に実施し、山形県に古くから伝わる民話・阿古耶姫の伝説をモチーフとした「いのちの橋を渡る音色」の創作をめぐって、著名なゲスト3名とともに、オーディエンスと意見を交えるものであった。ゲストにはアオクのほか、佐藤信(劇作家・演出家、座・高円寺芸術監督、若葉町ウォーフ代表理事。2019年福岡アジア文化賞/芸術・文化賞受賞)と太田豊(雅楽演奏家、雅楽演奏家として笛・琵琶・左舞を専門とし、国内外での雅楽公演に出演)に登壇頂いた。「いのちの橋を渡る音色」は、阿古耶姫の伝説をカンボジア古典舞踊の様式美と音楽を用いて現代に蘇らせた作品であり、現代社会における伝統、芸術の役割、国境を越えた芸術創作活動の可能性について考えた。当日は国内外から研究者、学生、舞台関係者、カンボジア研究者など20名の参加があり、活発な意見交換がなされた。
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