短距離走における腕振り動作は様々な指導書や先行研究においてその重要性が指摘されている。その中で疾走能力を高めるためには「腕を前後に振る」ことが望ましいとされている。しかし、これまでの我々の研究で腕振りの方向には男女差が認められることが明らかになった。具体的には、女子においては,これまで望ましいとされてきた前後方向に振っている選手が必ずしもパフォーマンスが高いわけではなく,横に振っていても十分に高いパフォーマンスを発揮できることが明らかになった。そこで2019年度は、そのメカニズムを明らかにするため、腕振りの方向(前後、横)が地面反力やスプリント動作において重要とされている体幹の動作にどのような影響を及ぼすかについて調査を行った。 大学生短距離選手男子8名、女子10名を対象に立位の状態で3種類(オリジナル、前後、横)の腕振り動作を実施させ、その動作を光学式自動動作分析装置(Vicon Motion Sys- tem,250 Hz)を用いて身体各部位(47 点)の座標データを収集した。また、地面反力をフォーススプラットフォーム(9281A,Kistler 社製)を用いて計測した。その結果、スプリント走の加速局面で重要である加速力について、男子では前後と横で有意な差が認められなかったが、女子では、前後よりも横の方が有意に大きかった。これらのことから、男子と女子では、加速力に影響を及ぼす腕振りの方向が異なることが明らかになった。しかし、これらの差が何によってもたらされるかについては明らかにすることはできなかった。したがって、次年度、動作分析や体型と関連づけて明らかにしていく。
|