研究課題
小学生における短距離走(かけっこ)の技術に言及した指導書や学習指導要領解説をみると「腕を大きく振る」、「肘を90度に曲げて振る」といった内容が数多く記載されている。しかしながら、実際の疾走中における腕振りの大きさや肘関節の屈曲・伸展動作の実態については明らかにされておらず、不明な点が多い。これらのことについて、前年度までの横断的な研究を通して、「腕を大きく振る」、「肘を90度に曲げて振る」ことが必ずしも疾走能力の向上に繋がらない可能性が示唆された。そこで最終年度では、縦断的な調査を行い、分析を行った。小学校中学年児童を対象に2年間(3年時および4年時)の追跡調査を行い、バイオメカニクス的観点から腕振りの大きさ、肘の屈曲角度の変容について明らかにした。その結果、男子において、腕振りの大きさ(上腕セグメント角度の動作範囲)は、3年時よりも4年時の方が有意に小さかった。疾走速度は3年時よりも4年時の方が大きかったため、腕振りが大きくならなくても疾走速度は向上することが明らかになった。前述のようにこれまでの先行研究や指導書において、腕を大きく振ることが疾走速度の向上に影響を及ぼす可能性が示唆されていたが、本研ではこれらの内容とは異なる結果となった。一方、女子においては、3年時と4年時で腕振りの大きさに有意な差は認められなかったが、男子とは異なり、3年時と4年時のストライドの変化率と腕振りの大きさの変化率との間に有意な相関関係が認められた。このことは、腕振りが大きくなるとストライドが大きくなることを示しており、疾走速度の向上に少なからず影響する可能性が示唆された。以上のことから、腕振りの大きさが疾走速度に及ぼす影響は男女で異なることが明らかになった。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Taiikugaku kenkyu (Japan Journal of Physical Education, Health and Sport Sciences)
巻: 67 ページ: 79~90
10.5432/jjpehss.21058