本研究課題では、運動準備時の注視や注意が運動遂行とどのように関係するかについての実験を行い、実際の運動場面における運動準備方略について、注意集中の観点から総合的に検討することを主な目的とした。 研究2年度目は、注意の向け方が走動作中の身体運動に与える影響を検討した実験研究について発表を行った。研究対象者は、陸上競技中距離種目を専門とする大学生8名であった。まず、注意に関する教示のない条件下で3分間のトレッドミル走行を行った。その後、前方のスクリーンに呈示される移動視標に注意を向けながら走る条件、および自身の身体の動きに注意を向けながら走る条件で同じく3分間の走行を行った。走者の身体各部に貼付したマーカーの位置情報から、走行中の身体各部位の各方向への変動を分析した。その結果、移動視標に注意を向けながら走る条件では、自身の身体の動きに注意を向けながら走る条件に比べ、移動視標の動きに影響を受ける形で、走動作中の身体位置が左右方向に変動する様相が観察された。本研究の結果から、身体外部の対象物へ注意を向けることが、走動作中の身体運動に影響を与えることが示唆された。 また本年度は、実際の3次元空間において、奥行き方向へ移動する物体(直径2cmの球体)を両眼眼球運動により追従する際の瞳孔径変化について検討を行った。その結果、物体の位置が観察者から遠くなるにつれ瞳孔径は増大した。一方で、物体が観察者に接近する場合、瞳孔径は減少するだけではなく、試行開始直後や終了直前など複数の時点で極大値がみられた。接近する物体に対し瞳孔径が増大した理由として、観察者に実際に近づく物体へ向ける注意を反映していた可能性が考えられる。また、瞳孔径は課題への注意集中を表す指標となることが推察される。今後は、物体を注視する際の瞳孔径が実際の運動パフォーマンスと関係するかどうかについて検討を行っていく必要がある。
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