筋サテライト細胞は、筋の損傷修復に欠かせない筋の幹細胞である。しかし、通常休止期にいるサテライト細胞を活性化させるメカニズムについては不明な点が多い。本研究では、筋損傷後にサテライト細胞の活性化を促進する筋由来因子をみつけだし、筋の損傷修復機構の新たなメカニズム解明を目指した。 本研究では、サテライト細胞の活性化を筋線維上で培養かつ定量可能な「浮遊培養法」にて、筋損傷を模倣した実験モデル作りから始めた。この培養モデルを利用し、損傷筋線維が非損傷筋線維上のサテライト細胞の分化制御にどのように関与しているかを観察した。その結果、損傷を加えた条件でのみサテライト細胞活性化の指標である MyoD 陽性細胞数と、細胞増殖の指標の一つである ki-67 陽性細胞数が増加した。一方で、細胞周期におけるS期を通過したか否かの指標である EdU の陽性細胞数は増加せず、サテライト細胞数も有意な増加を示さなかった。この結果から、筋線維由来の生理活性因子は筋サテライト細胞を活性化させるものの、増殖を促進させる特性はもっていないことが分かった。続いて、サテライト細胞を活性化させた筋線維由来因子を特定するために、筋線維に損傷を加えた培養液の上清をプロテオーム解析を実施した。その結果、解糖系酵素として知られている酵素群が候補として挙げられ、再び浮遊培養法にてこれらの酵素群を添加すると、サテライト細胞の活性化が認められた。実際にWTマウスにこれらのタンパク質を投与した後に筋損傷を生じさせると、増殖の指標である EdU 陽性細胞数が増加した。 以上の結果から、これまで解糖系酵素と考えられてきた酵素群を放出することで、筋幹細胞を活性化させ自身の修復を図るといった、極めて合理的かつ効率的な再生メカニズムが存在することが示唆された。
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