スポーツの熟達に質の高い練習は必要不可欠であるが、質の高い練習を促すことは容易ではない。そこで本研究では、スポーツ場面における質の高い練習を反映すると考えられている練習中の自己調整学習の程度に対して影響する個人特性及びスポーツの熟達に最も貢献する自己調整学習の特徴について検討を行うこと を目的とした。 平成30年度までは、自己調整学習の程度に影響する個人特性の解明に焦点を当てて検討を行ってきた。結果として、自己調整学習の実施は、選手個人の心理特性のうち、困難にめげずに目標達成を目指すことを意味する「根気強さ」によって最も説明されることが明らかとなった。しかし、スポーツ選手の自己調整学習の実施が選手の性格特性などの個人要因によってのみ左右されるというのは考えづらい。仮に選手が自己調整学習に適した個人要因を有していても、能動的に練習を進められる環境になければ、自己調整学習は実施することはできないためである。 そこで令和元年度は、選手の自己調整学習の実施に影響を与える要因について、個人要因に加えて環境要因も踏まえて検討を行った。215名の大学生競技者を対象として、自己調整学習尺度得点、能力観得点(個人要因)、及び、指導者の指導スタイル(環境要因)を測定した。結果として、指導者の指導スタイルの違いによって能力観得点と自己調整学習の関係は変化することが明らかとなった。具体的には、選手が選手主体の指導スタイル環境に置かれている場合、能力観の違いによって自己調整学習の実施が阻害されることはないが、選手が指導者主体の指導スタイル環境に置かれている場合、自身の能力は努力では変えられないと考える固定傾向の能力観をもつことで自己調整学習が阻害される可能性が示された。以上のように、選手の自己調整学習の実施は個人要因と環境要因の両方に影響を受けることが明らかとなった。
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