研究実績の概要 |
背泳ぎではプールの壁面からの足離れ時に最も高い速度がみられるため、入水時の減速をいかに小さくするかが競技成績を決定する重要な要因となる。にも関わらず、背泳ぎスタートに関する研究はスタート合図前の構え (De Jesus et al., 2013,2016,2018; Barkwell and Dickey J., 2020) に着目したものが多く、スタート合図後の動作についての知見は著しく少ない。Takeda et al. (2011) は、背泳ぎスタートの入水技術に関して検討したところ、入水範囲が狭く、全ての身体が同じ穴に入るような理想とされるホールエントリーが5mタイムを決定する最も重要な要因であることを示した。また、そのホールエントリーをするためには、背中を大きく反らす姿勢であるアーチバック姿勢をとる必要があり、その姿勢をとることで抵抗の少ない姿勢が可能になることも示されている(Maglischo, 2003; Mills, 2005)。これらの先行研究はルール改正前であったため、バックストロークレッジ(BSL)が使用されておらず、現在のルールに合わせるため、BSLを使用した状態での検証が必要であることが考えられる。 以上のことから、我々はシグナル後の股関節および膝関節を伸展させるタイミングの違いにより、パフォーマンスに影響があると仮説を立て、研究を進めた。本研究では、背泳ぎスタート中にBSLを使用した場合、各下肢関節伸展のタイミングの違いにより、パフォーマンスにどのような影響があるかを明らかにすることを目的とした。 本研究の結果より、膝関節が伸展し始めた後に股関節を伸展するような動作を行うことで跳び出した後のアーチバック姿勢が取りやすくなり、入水範囲が狭くなるようなホールエントリーを行うことが可能になることで5mタイムが短縮されたことが示唆された。
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