本研究の目的は,吸気酸素濃度を容易に変化させられるという常圧低酸素の特性を生かしたスポーツトレーニング方法を開発する事であった.そこで,研究1として,同一低酸素環境下における血中および活動筋における酸素飽和度の個人差を明らかにし,酸素飽和度の個人差と内分泌応答の関連について検討した.研究2として,トレーニングのセッション間の休息時における酸素濃度の相違が,運動パフォーマンスや代謝応答に及ぼす影響について検討した. 研究1では,同一の酸素濃度環境(吸気酸素濃度14.5%,標高3000m相当)におい相対強度が同等な運動を行ったとしても,動脈血酸素飽和度に10%程度の違いがみられルとともに,筋酸素飽和度ではさらに大きな違いが認められた.さらに,筋酸素飽和度は血中pHと有意な相関関係を示し,有意ではないものの,血中乳酸や血清成長ホルモン濃度と関連する様相が認められた.したがって,低酸素環境において運動効果を高めるためには,骨格筋内の酸素飽和度にも着目しながら酸素濃度を個人に合わせて変化させるトレーニングが有効である可能性が示された. 研究2では,運動中は低酸素(吸気酸素濃度13.6%),休息中は通常酸素(20.9%)を吸入する高強度間欠的運動を実施させ,運動中,休息中ともに通常酸素または低酸素を吸入させた場合との生理応答および運動パフォーマンスを比較した.その結果,運動パフォーマンスは通常酸素環境および低酸素環境のみと同様の値を示し,身体への代謝的負荷は低酸素環境と同様に高い負荷がかけられていた.したがって,休息時に低酸素室から退出するか否かによって疲労の回復度合いや代謝的な刺激は変わらないことが明らかとなった. 以上のことから,運動中の酸素濃度は個人の筋酸素飽和度レベルを考慮しながら決定することが望ましく,休息時における酸素濃度の変化は代謝応答に影響しないと考えられる.
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